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未来にふく風 <2>

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2000年8月25日。
東京・八王子市。

ふりかえればその日は世紀末世紀末とさわいでいた頃の
ほんとうに世紀末の最後の年の夏だった。

予定日を一週間も過ぎたその日の夕方、汗だくになって風呂そうじをしていた。
気がつくと、はいていた短パンがぐっしょりとぬれている。

経産婦で、予定日が一週間も過ぎた妊婦は、肝がすわってしまうものらしい。
「あら、汗?おしっこ?まさか!」と自分で自分につっこみながら短パンを着替えた。

風呂そうじを続行していると、またまた短パンがぐっしょりにぬれている。
「え、また?汗?おしっこ?いやいや、これ、破水でしょう!」

たしか、夕方の五時半くらいだった。

助産師のトミシゲさんに電話。

二階にあるふとんを自分でおろし、座敷に放り投げる。
そうこうしているうちに、どんどこ陣痛が来ているのがわかる。

痛みを逃そうと四つんばいで呼吸をしていると
二歳二ヶ月だった長女が「ママ、この本、見る?」と自分の本をさし出した。

「いらないっ!」

いらいらしてその本を手ではらってしまい、長女がびっくりした顔になった。
やばい、ごめん、こころではあやまるのにそれがことばになって出てこない。

トミシゲさん到着。

「きょうたさん、こんなにお産が進んでしまって。不安だったでしょう」
トミシゲさんにそう言われて、そうか、不安だったかも、と思う。

「おふとん、自分でおろしてきたの?海ちゃんこんにちわ。もうすぐ弟くんに会えるねえ」

トミシゲさんは長女とわたしに交互に話かけながらわたしをおふとんに導き、
わたしのはいていた短パンをスルリと脱がした。

よつんばいでお尻をトミシゲさんに突き出している格好になって、
もう、大丈夫。トミシゲさんにお任せしよう。
そう思って心底ほっとした。

「赤ちゃんの頭が見えてきているの。手でさわってみる?」
やさしく聞いてくれたトミシゲさんに、

「いやだーッ!」
と叫んでしまう。

あまりの痛さにとにもかくにも叫ぶ叫ぶ。

「これはお父さんが到着するの、待っているわねえ」

トミシゲさんがお尻のほうで楽しそうに言う。
海はどこへいるのだろうか、わたしのお尻をのぞいているのだろうか。

名前はまだ、決まっていなかった。
長女に海(ウミ)という名前をつけたのはわたしだったから、ふたり目は夫の番、のつもりだった。

いい名前を考えておくよ、という夫を特にせかすこともせず、
とうとうこの日を迎えてしまっていた。

夫が八時ごろ帰宅し、ほんとうにそれから間もなく生まれてきた。

長女が泣き顔で「かわいい」とつぶやき、いや、かわいくはないよねきっと。
二歳二ヶ月でも赤ちゃんにはかわいいって言わなくちゃと思っているんだなとおかしかった。

「へその緒を一周、首に巻きつけていたけど、大丈夫、問題ないですよ」

トミシゲさんが言った。

生まれてきた赤ちゃんを見て夫が「風くんだね」と言う。

なんだ、わたしがつけたかった名前、ほんとうは気に入っていたんだ。
自分ではクリストフにしたい、なんて言っていたくせに。

風はこうしてわたしたちのところへやって来た。
















十八年たってもけっこう覚えているものだ。
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風くんってクリストフだったかもしれないんだよ、という話は家族間ではけっこう受けます。








by kyotachan | 2019-02-28 01:10 | なげーやつ | Comments(2)

未来にふく風 <1>

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書いておこう、と気持ちはあるのになかなか書くことができない。

こんなこと書いて大丈夫かなという思いがブレーキをかけていると思っていたのだけど、
ほんとうのところは書く、ことが単におっくうになだけなのだなと気づいた。

なげーやつ、で、色んなところをぼかして書くつもりだったけど、
それじゃあもっと書くのがおっくうになってしまう。

最初からひとつひとつ、ほんとうのことだけを書こうと決めた。

それはね、風がね、ふいてくる話。
近い未来、十年くらいあとに、きっときっとふく風の話。


















写真は七年前、友人家族と散歩した季節はずれの海。
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とりあえず書き出すことにした。








by kyotachan | 2019-02-27 02:39 | なげーやつ | Comments(8)

南仏・ニース在住。フランス人夫・一男三女の六人家族
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