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2019年 04月 02日 ( 1 )

未来にふく風 <20>



依然として風の抱える問題はわからずじまいだったのだが
いくつか、わかったこともあった。

夫が知り合いのセラピーに会わせたいと
Antibes アンチーブ まで風と夫と、ふたりで出かけた日があった。

夫の知り合いだったから風の気に入ることはないな
とわたしはまるっきり期待していなかった。

夕方、ふたりはおそろしく興奮して帰宅した。
アンチーブまでは車で小一時間かかるから、車の中で何かあったのだなと思った。

夫の顔は明らかに怒りに満ちている。

「風、車の中でボクに話したことをママにもここでもういっぺん、話して」

夫はわたしを見るなりほとんどどなるように言った。風はほとんど泣かんばかりの大きな声で言った。

「ママ、前のアパートで、パパがママに向けて花瓶を投げたことがあったよね」

わたしは遠い記憶をたどり、ああ、そんなこと、あったなあと思い出す。

「あったあった。パパが花瓶を投げたことはあった。だけどわたしに向けてじゃあなかったよ。畳に向かって投げたんだよ」

わたしはそう答えたがわたしの言うことは耳に入らないほど風は興奮している。

「だって、その時の傷がママの腕にはあるじゃない!」

風はそう言って、わたしの上腕部を指差す。そこにはおそらく生まれたときに受けた予防接種の後が。

「……!!!コレッ???これは日本で受けた予防接種の後だよ」

そう言うのに風の耳には届かないらしい。

「パパにそんなことされて、ママは平気なの?どうして今も一緒にいるの?」
「いやだから、パパが花瓶を投げたのはわたしに向かってじゃなかったんだってば……」

何を言っても風の耳には届かない。

「けんかはしょっちゅうしてるけど。でもその度に夫と離婚してたら、ママ、一生の間に何べんも結婚と離婚を繰り返さなくちゃいけなくなるよ。
ママはね、パパと生きようって決めてるの。相手が誰であっても問題はいつもあるものだもの。
ママはね、パパとその問題を一緒に解決しようって決めてるの」

夫はこわい顔をしてそこに立っている。
花瓶のことはまったく記憶にないらしい。

記憶の書き換えとでも呼ぶのだろうか。
風の中で何かがゆがんだ形で記憶されているらしかった。

そしてそれはもうひとつ、あった。

















ついてきて、くれているかな。だれか。
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by kyotachan | 2019-04-02 15:26 | なげーやつ | Comments(9)

南仏・ニース在住。フランス人夫・一男三女の六人家族