2010年 11月 06日 ( 1 )

fumiko 史子。<23>







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ひと月以上も先にあると思っていた
地球号寮でのクリマス会は
あっという間にやって来た。

わたしは由美子さんに何度か電話をして、
当日に持っていったほうがいいものなどを
相談した。

いつしか恒例になったこのクリスマス会は、
寮生やその家族はもちろんのこと、
大学の事務局の職員、市役所の職員までも
招待し、なおかつ来るものは拒まぬ、で
誰にでも門戸を開放しているらしかった。

時間は午後の三時から九時までで
その間にたくさんの人たちが
出たり入ったりするらしい。

「ひとり一品持ち寄り・プレゼントはなし」
が原則で、何を持って来てもらってもいいのだが、
もし苦痛でなければ、
大きい鉄板で焼いたブラウニーなんかがあるとありがたい。

由美子さんにこういわれて、
わたしはクリスマス会の前日に
鉄板にいっぱいのブラウニーを二枚、焼いた。

当日は朝から五合のお米を炊いて
巻き寿司を作った。

飲み物はわたしの好きな赤ワイン。
五リットル入りの箱をふたつ持っていくことにした。

「もしかして寒い時期にいらっしゃるの、
これが初めてじゃないかしら。
中庭と食堂をメインに使うのだけど、
外にいると寒いから温かい格好でいらしてね」

由美子さんのアドバイスどおり
わたしたちは毛糸の帽子まで準備して
お昼過ぎに出発した。

ふと気がつけば
純一が寮に入って以来、
一度も行っていなかったから、
胸がはやってどきどきした。

わたしたちは、予定より少し早めに到着したのだが、
寮内ではすでに、寮生たちだけとは思えない
たくさんの学生たちががやがやと楽しそうに
設営・準備をはじめていた。

純一が、食堂の床に、段ボールをしきつめているのが見える。
おそらく、この日は土足でも入れるようにするためだろう。

わたしたちに気がついて、純一が手を上げた。
恭太は走っていって恭太が「男のあいさつ」と呼ぶ
あいさつをしに行った。
げんこつをぶつけ合わせてた後、手のひらをぱちんといわせる、
純一と恭太、ふたりだけのあいさつだ。

明彦さんと由美子さんはとてもお元気そう。

ふたりの満面の笑顔を見たら、
ああ、来てよかったと思った。

早速わたしたちも
お手伝いに加わった。

食堂の正面には今日のプログラムが
大きく張り出されていた。

留学生が書いたのだろうか、
つたないひらがな文字が
それだけで笑いを誘う。

わたしたちが眺めていたら
昭彦さんが隣に来て言った。

「七時からの〝ばくしょう・スピーチたいかい〟は
ぼくも毎年、楽しみにしているんです」

「何ですか?スピーチ大会、って」

夫が聞くと、

「留学生は日本語で。
日本人は英語で。
とにかく〝おもしろい話〟を
スピーチするんです」

昭彦さんは、今にも笑い出しそうにしながら答えた。

「じゃあ、それは逃さないようにしないと」

わたしたちは顔を見合わせて笑った。

三時を過ぎた頃から、
わらわらと人が集まりだした。

昭彦さんはすでにピザを焼くのに忙しそうだ。

「自分で言うのもなんですが、これ目当てで来る人が多いんです。
今日は一日、ピザおじさんですよ」

昭彦さんはうんざりして見せたが、
まんざらでもなさそうだ。

純一はいつの間にか、
サンタクロースの赤い帽子をかぶって、
人々を迎え入れている。

会うたびに、体だけではなく、
どことなくたくましくなっていく純一を
遠くから眺めるのはこそばゆいものだ。

恭太を探すと
女子学生のグループに囲まれて
顔をくしゃくしゃにして笑っている。

恭太は若い女の子が好きなんだよなあ。
赤ちゃんの時から知らない子の胸の中に
飛び込んでいってたものだった。

いつの間にかぼんやりと、
他人の中にまじっている子どもたちを眺めていたら、
赤いサンタクロースの帽子をかぶった由美子さんが
よかったらどうぞといって帽子を渡してくれた。

気がつけば昭彦さんも
いつの間にか赤い帽子をかぶっている。

昭彦さんはピザを焼く間は
のんびりと椅子に座って
招待客と思われる、
四十代くらいの男性と相手をしている。

明彦さんが手に持っているの何だろうと聞いてみたら、
それはホットワインだった。

「今年はね、ひとり、
フランスから留学生が来たんですよ。
それで、寒いときの飲み物は何がいいか、
て話になったときに、このホットワインに限る、
ていうもんだから。
今日はその子がホットワインの係を担当してます」

由美子さんは指をさして、
ホットワインのコーナーを教えてくれた。
わたしたちも早速試してみた。

大きい鍋に、ワインが入っている。

「シナモンは好きですか」

ころころに太って、
ほっぺたを真っ赤にした男の子が
こう聞いてきた。

目がビー玉のように青くて
まつ毛がおそろしく長い。

「はい、、大好き、です」

わたしがゆっくり答えると、

「あ、そうですか。
じゃあ、たくさん、入れます」

そう言ってホットワインの中に
シナモンの粉を振り入れてくれた。

プラスティックに入ったワインを
受け取るとき、その男の子から
わきがの匂いがした。

ガイジンだなあ、とふと思った。

「お名まえは?」

「アラン、といいます」

「そう。わたしは史子。
純一の、母です」

「は、は、?」

「ああ、あの、純一の、お母さん」

「ああ、ジュンの、おっかあさん」

アランはうれしそうに笑った。

ホットワインはかなり甘かった。
レモンの香りもする。
ほんとうだ。これは体があったまる。

わたしはホットワインを飲みながら、
持参したブラウニーにナイフを入れて
粉砂糖をふりかけた。

え?もう?

ふと横を見ると、
さっき並べておいた巻き寿司が
すでに半分くらいになっている。

わたしの表情を読んだ由美子さんが、

「ここは早いもの勝ちだから」

そう言って笑った。
去年は、思ってもみなかった大人数が来てくれて、
準備していた食べ物ではとうてい足りなかったのだという。

三時からそんなに食べ物がはけるとは思っていなかったのだが
学生たちの食欲は想像以上だったらしい。

今年はピザの生地も充分にスタンバイしているし、
おそばも打ってもらったから大丈夫だとは思う。

中国から来た学生には餃子をできるだけたくさん、包んでもらった。
三分の一は焼いて、三分の一は蒸して、残りは水餃子にする予定なのだ、
由美子さんはそう説明してくれた。

ピザ焼き釜の隣りで、昭彦さんが、誰かに頭を下げている。

「ああ、あの人はね、大学の事務局にいる人なの。
ウチ、学生たちのことで、結構お世話になってるから」

由美子さんが言う。

「ああやって、主人が人に頭を下げるなんてね」

由美子さんはひとり言のようにつぶやいた。

わたしは昭彦さんがいつか、
自分は人の腹の中ばかりをのぞいていた、
それで世間のことを知っている気になっていた、
と話してくれてたときのことを思い出していた。

























いやあ、なんか、いいなあ。ほっとするなあ、地球号寮に来ると。>へっ?
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ピザとホットワイン。仕上げに温かいかけそば。ああ、もう、これ、最高なクリスマス。>すげー和洋折衷な感じの?

恐れ入ります
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by kyotachan | 2010-11-06 01:38 | なげーやつ | Comments(6)

南仏・ニース在住。フランス人夫・一男三女の六人家族