「(つつつ、冷たっ!)」
ミチルは氷で冷えた手でリノの二の腕をぎゅっとつかんだ。
冷たい手で急にさわられたリノはというと
ちょっとだけぴくりとしただけで特別な反応は見せない。
梅酒をサービスしたか、デザートを作った後は手が冷たくなってしまう。
そんな時、わざとリノの腕に触って自分の手を温めるふりをした。
本当はぎゅうっと抱きしめたい。
それができないゆえの代替策。
ミチルはリノに「告白」したことで
自分のリノに対する好意をあからさまに示すようになった。
リノは自分の意志を表明をすることはなかったが
それを嫌がるそぶりも見せない。
サービスの終わりに、瓶類を専用のゴミ箱へ捨てに行く。
リノの仕事だったが多い時にはミチルがそれを手伝うことがあった。
お店の外でふたりきりになれる。
唯一の数分間。
今日こそ、リノをぎゅうっとしよう。
ミチルはそう思うのに、リノはいつもそれを上手にかわすのだ。
トイレでミチルにお尻をさらした時でさえ
ミチルが後ろからぎゅうっとしようとしたとたん、
リノは体をさらりとかわしてそれをさせてはくれなかった。
ミチルはかわされることに軽く傷つくのだがそのたびに思うのだ。
そんなリノだからこそわたしはリノが好きなのだと。
ミチルはリノにどんどんひかれていくことがおそろしくて
ドミニクに会った時に話した。
「(それは母性愛だよミチル)」。
ドミニクは断言する。
「(だって子どものことをぎゅうってしたくなるでしょ)」。
言われてみたら確かにそうだ。
子どもたちのことをぎゅうっとしたくなる気持ちはある。
じゃあこの胸の痛みは母性からくるものなのだろうか。
リノに対する気持ちは子どもたちに対する愛と同じものなのだろうか。
ミチルにはわかっていた。
これは母性愛なんかじゃない。
この胸の痛みは恋する者のあれだ。
同時にこれを母性愛だと思わなくてはとも思っていた。
ドミニクはわざと断言したのかもなあ。と今もそう思う。



