殺伐としている。
殺伐としているとしかいいようがない。
普段買い物をする場所で感じたことのないこの感じは何。
週末のカルフールといえば誰もが週末モードでのんびりと買い物をしているはずの時間。
わたしたちはたいてい、土曜日の午後に一週間分の食料の買い物をする。
その日は金曜日だった。夫の仕事が休みだったので一日繰り上げたのだ。
土曜日よりもすいているだろうと出かけたカルフール。
それなのにいつもの土曜日よりも混んでいる気がする。
ああ、前日にマクロン大統領が「月曜日から全国の学校を閉鎖する」と発表したからか、と思いいたる。
それにしてもこの殺気だった人たちは何。
小さなマダムが大きなキャディを押してわたしをにらんでいる。
道をあけろと目でうったえているらしい。
中学生くらいの女の子が買い物リストを手に握りしめてキャディを押している。
親に買い物を頼まれたのだろうか。
普通に押して進んでいけるはずの店内なのに、この日はなぜだかどこもかしこも押し合いへし合いで、
「わたしが」「おれが」と誰もがあせって買い物をしている空気がいたるところに漂ってる。
レジに並ぶと、誰かが放りっぱなしにしていると思われるキャディが。
レジの列を整える係りの人が「誰かが買い物を放り出したのだろう」と判断してそのキャディを横へ置こうとしたとき
すでにレジに並んで品物をレジのテーブルに置いていたムッシューが「あ、それ、ボクのです」という。
キャディ一杯分でもかなりの量の買い物をしているのに、それを二杯分?
そのくらいの大家族なのか、それとも、学校が閉鎖されるならじきにスーパーマーケットも閉鎖されると想定されているのか。
あらためてレジの周りを見回すとトイレットペーバー、キッチンペーパーでキャディを一杯にしている方が目に入る。
あれ?なんだか非常事態を想定してのお買い物ディなのかな、今日は。そんなことに今さら気づく。
夫もわたしと同様の人種のようで普段と同じ買い物をする気持ちしか持ち合わせていなかった模様。
紙類も洗剤類も一週間分は充分にあると判断して買い物分はいつもより少ないくらいだ。
えー!いまってそのくらいの非常事態なわけ???
家に戻るとモナコの隣町に住む友人がモナコのカルフールの棚の写真を送ってくれていた。
みごとに空っぽになった棚の写真を。
ニースのカルフールにはまだまだ商品がたんまりと詰まっていた。
これから空っぽになるということなのか。
日曜日の朝、長女からメッセージが届く。
「お店の棚、がらがらだよ。何か必要なもの、ない?買っておこうか?」
たまごのストックがなかったのでたまごだけをお願い、と返信。
お昼近くになって、ドアのそばに大きな買い物袋がふたつ。
買い物したものを無言で置いていったらしい。
中身を見ると、たまごだけじゃない、大量のパン類、瓶詰めの野菜、コットン。
冷凍のインゲン豆やパイシート。ツナ缶。ポタージュスープは自分用?
普段使わない漂白剤まで入っている。そして「え?」と思うほど大量のトイレットペーパー。
想像するに同じような買い物をボーイフレンドの自宅にも届けたのだろう。
月曜日からはフランス中の学校(幼稚園~大学)の閉鎖。および
最低限の日用品をあつかうお店や薬局、銀行やガソリンスタンド以外のお店は閉鎖されるという。
次女がわたしのところ来て「じゃあママも一緒にウチにいるんだね」という。
……、そ、そうなの?
それって、ニースの小さなお店にも適用されるの?
いまのところ、こんな状況。
写真は長女が置いていった買い物袋。冷蔵・冷凍品を片付けたあとに撮った。ぱんぱんだったのだよこれが。