風の夜泣きにはたいそう苦しめられた。
ぎゃんぎゃん、としかいいようのない泣き方。
夜泣き一日目、夜泣き二日目、夜泣き三日目。
三日続くと隣でぎゃんぎゃん泣かれてもそれを聞きながら眠れた。
ありがたかったのは、風がどんなに激しく泣いても
同じ部屋で寝ていた長女の海はけして目をさまさなかったこと。
和室にふとんをひいて、わたしが真ん中に、両側に海と風。
あまりにも連日なので夫は別室でひとりで寝るようになっていた。
それでも風の泣き声を聞いて起きてくることがあった。
「こんなに激しく泣くなんて、やっぱりどこか痛いんだよ。救急、連れて行く?」
「だいじょうぶだから。どこも痛くなんてないはずだよ」
早朝から仕事に出かける夫に負担はかけられない。
長女が通う幼稚園の先生に「どうですか。風くんの夜泣きは」と聞かれたことがある。
「しますねえ夜泣き。でももう、楽観視することにしました。いつかは終わるんだろうなあって思ってます」
「そう!それがいいわね」
どんな育児書を読んでも医者が好き勝手なことを並べているだけ。
けっきょくのところ風がなぜ夜に限って泣くのかは、本人にしかわからない。
わたしはほんとうに楽観主義に徹することに決めたのだ。
深刻ぶっても何も変わらない。
風が一歳半のときだった。
わたしの左脇に赤いはれものができた。ポツンとひとつ。
同時にそれまで経験したことのないような痛みがある。
気がついたのが金曜日だったから、土日をやりすごして月曜日に皮膚科にかかった。
痛みは別の件だと思っていたからそのあと整形外科にもかかろうと思っていた。
ところが皮膚科で即、診断名がついた。「帯状疱疹」。
疲れが原因で眠っているはずのウィルスが働いて発症する病気らしい。
「ここのところ、ものすごく疲れるようなこと、あったでしょう。あったはずですよ」
気に入っていた女医さんが言う。
「ものすごく疲れるようなことですか。はあ、まああったようななかったような」
わたしはあいまいに答える。
ものすごく疲れている、という自覚はあまりなかった。
そして「即刻入院」を言いわたされた。
写真は2013年1月シミエ。