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lettre à elise レットルアエリーズ/ エリーゼのために









lettre à elise レットルアエリーズ/ エリーゼのために_f0136579_185652.jpg

台所にいるとちびたちの部屋からエリーゼのためにが聞こえてきた。
ソラがギターで弾いているのだ。

知っている曲だからか、しばし耳をかたむけるようにして聞き入る。
習ったばかりらしく、とちゅうからスピードが落ちるのだけど
それさえも感情をこめているからのように聞こえて自分を笑う。

天才かもなあと本気で思う親心。

長女が自分の部屋から出てきて
「ソラ、さっき、タララララララララ~ン、てやつ、弾いてたでしょ。あれいいね」
と言っている。

ほら。やっぱりいいんだ。また自分を笑う。












・ママ、土曜日、クレモン、うちに泊まってもいい?
長男が言う。

クレモンは長男のいちばんの仲良しで
もう何度かウチに泊まりに来たことがある。

男きょうだいがいないから、クレモンとふたりでいる長男を見るのは新鮮だ。
おとうとが生まれていたらこんな風にじゃれあったりするのかな。
見ていてほほえましくなる。

・いいよー。パパの了承もとっといてね
・土曜日の昼間、クレモンとバーゲンに行きたいのに、クレモン、ガールフレンドと会うんだ。
・そうなの?クレモンにはカゼのことよりガールフレンドのほうが大事なんだ?
・……。まあね。あ、だけどね、事故にあったから、お見舞いしたいっていうのもあると思う。
・事故っ?自動車事故?
・そう、彼女が母親のスクーターの後ろに乗ってて、すべったらしい。
・スクーター?スクーターやバイクは死亡事故につながりやすいからこわいんだよ。骨折?
・たしか、あしの骨折。
・そりゃあたいへんだ。

クレモンは昼間、ガールフレンドを見舞ったあと、ウチに来る予定だったのだけど
結局それはキャンセルになった。理由はわからない。聞かなかったから。

ガールフレンドのことは petite copine プチットコピンヌ。
ボーイフレンドは petit copain プチコパン。

わたしは学校では petit(e) ami(e) プチタミ と習ったけど、今では古いことばになってしまったみたいだ。

長男の口からはまだ一度もガールフレンドの話は出ない。
あせった様子や友人をうらやんでいる様子はまるでなし。














次女の誕生日は十二月十五日なのだけど、
年があけて、誕生日からちょうどひと月たったころ
次女の友人が自分の自宅でサプライズパーティを企画・実行してくれた。

マエルという名の友人は
次女と同じような容姿でふたりが並ぶと友人というより姉妹のようにも見える。

一月半ばの土曜日、夫は何も知らない次女を友人宅へ送っていった。
マエルはクラスの半分くらいの友人たちを集めてくれていたらしい。

半日をかけてたっぷりと誕生日を祝ってもらった上に
プレゼントにはいくつかのお店のお買い物カードやアクセサリーを持ちかえった。

いま次女にとっての最大の関心ごとは「何を着るか」。
その日のプレゼントは彼女にはぴったしだったわけだ。

この冬のバーゲンは長女に付き合ってもらって思いっきり好きなものを買った。
この冬なんてあとひと月かせいぜいふた月で終わってしまうのに
なーんていう母親の不満はこの時はぐっと飲み込んでおいた。










長女今は、とにもかくにも友人宅へ泊まりに行くのが楽しい。
彼女の友人がウチに泊まりに来ることも多い。

一月の終わりには auront オホン まで行った。
友人の両親が働く先のオーナーさんのアパートがスキー場近くにあるという。

夫は毎回、まず必ず難色を示す。

またお泊り?
今度はそんなに遠くまで行くの?
たまにはウチでのんびりしたら?

わたしはそれが可能ならなるべくあっさり許可している。
家から出たがらなくていつも親にべったり、というのよりもずっといい。

感心なのは、わたしたち両親がいないときはちゃんとそれを心得ていて
わたしたちが不在の時は、した三人の面倒をきちんと見てくれるところ。

そのことにはわたしは心から長女に感謝しているし、
だから彼女がしたいことはできるだけ賛成しようと決めている。

今年は十七で来年は十八。
法律的なことをいえば来年には長女は成人だ。

働こうと思えば働くことだってできるしひとり暮らしだって可能になる。

わたしはいまからこうして準備運動をしているのだ。
いつかは長女が家から出て行くのを想像しつつ。












不可解、としかいいようのない事件が連続して起こった。
わたしはそれをなんとか理解しようとして、色んなサイトに首をつっこんでは情報を読みあさる。

何を読んでもそれは正論のように思えるけれど
何を読んでもいま起きていることのほんとうのところがどうしても理解できない。

わたしたちは生まれる場所や生物学的にいう人種が違っていても
そして習慣や信じるものや食べるものに多少の違いはあっても
ひとりひとりが同じように父親と母親のあいだに生まれてきた人間なのには間違いがない。

殺されるかもしれないと覚悟してある国に行くもの。
何かの理由でそれを殺すもの。

そのふたりの間のどこに「殺される・殺す」理由があるのか。
いくら知識をつめこんで理解しようとしてもまったく理解できない。

難しすぎることがあまりにも簡単に行われているように見えて
わたしにはそれがこわい。

いや逆か。

簡単なことがあまりにも難しいことに変換されているように思えて、それがこわいのか。

殺されるかもしれないと覚悟してまでその国へ行ったその人は
わたしたちに何かを伝えたかったに違いないのだ。どうしても。死んでまでも。

それは一体、なんだったの。

わたしの頭はいつの間にかがちがちに固まっていて、だから
三女の奏でる「エリーゼのために」が脳にしみわたったのかもしれない。



























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Commented by helleboww at 2015-02-03 00:50
ずっと続いていた気持ちが、今日kyotachanの投稿を読んで、初めて泣けました。いろんな人がいろんなことを言っていて、無記名のtwitterとか読んで、何がなんだかわからないきもちだったけれど、ただ悲しんでいいよね、という気持ちになりました。
Commented by kyotachan at 2015-02-03 05:28
hellebow さん、わー!なんか、コメントもらってものすごーくうれしいー!
この記事書き始めたとき、ほんとうは「死んだジャーナリストの人、その国にもお母さんがいてお父さんがいて子どもたちがいて、普通の家族がある、てことをリポートしたかったのかなあ」て、そんな想像があったんです。でも書き進めているうちに、それはあまりにもわたしのごう慢な想像だという気がして、でも、数日前から頭の中にあるそれとを関連させたくて、なんだかまとまりのない記事になってしまいました。そんな風に読んでくださる方がひとりでもいた、ということをとても嬉しく思います。
いつの間にかお隣さんになってるしー!ニーム!行きたい!行くー!よんでー!
Commented by greenlove at 2015-02-03 09:17 x
「エリーゼのために」と「トルコ行進曲」を弾きたいがためにピアノを習う子どもが多いそうですよ。
やはり永遠不屈の名曲ですね、このメロデイーが流れていたらつい耳を傾けたくなりますね。
家の中でギターでこの曲委が流れてるって素敵!

後藤さんの行為が偉業なのか無謀だったのか長い長い歴史の中でわかることでしょう。
表面に表れたことだけに振り回されてはいけないでしょうね。
私もいくら考えても理解できないです。自然、動物、純真な子供たちの笑顔、戦争を始めようとする人たち(国家)はこれらの事に心を動かされないのかな。
分からないです。
Commented by atorie_yume at 2015-02-03 10:16
ギターのエリーゼのために・・・脳に心に沁み込みそうですね。特に今は・・・
長女が高校生の時 お稽古していた琴で「春の海」を練習していた・・・家が料亭のようだった(爆)時々は聞きたいなと思っていたが 大学で遠くに行き就職で もっと遠くに行き
また同居になったが 育児で忙しくてとても とても・・・
子育ては18歳までだよ その間諭したり笑ったり心配したり
楽しんでください。 大人になったら そりゃ こっちの考えなんか聞く耳もたないし~~心配ごとは 深刻を増すばかり。
Commented at 2015-02-03 20:50
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kyotachan at 2015-02-04 03:07
greenlove さん、
わたしには小さな夢があって、六十になったらピアノ教室に通うんです。そして「英雄ポロネーズ」を弾けるようになるんです。想像するだけで早く六十になりたい、早く弾けるようになりたい、て思います。音楽、てなんて平和なんでしょうね~。
殺す側にある正義。これをどうやって理解するか。人を殺したら普通は殺人罪ですよ。それを正義と主張することを理解する苦しみ。

夢さん、
料亭のような我が家!すてきです。お琴は大きいからたいへんですね。そういえばわたしの母親も習っていたことがありました……。そうかあ。子育ては十八で終了ですか。そりゃあそうだ。いつまでも親の言うとおりに生きてなんかいられませんものね。自分の十八の頃を思い出せば当然といえば当然です。そして親の心配事はますます増えていくという……最近子育ての醍醐味が少しづつわかってきました。笑。
Commented by kyotachan at 2015-02-04 03:09
かぎこめさん、
うわー!うれしいー!行く行くー!といいたいところだけど、いまのところ我が家は六人大民族同時移動、が基本だからちょっと難しいかなー。だけどね、かぎさんの住んでいる地方、ものすごーく行ってみたいんです。だからいつか実現させたい!どうもありがとう~。だけど、わたし、けっこうな悪人かもよ?そんなに簡単に誘ってだいじょうぶ?笑
Commented by アンジー at 2015-02-04 06:21 x
☆ おはようございます ☆

昨日は 節分! いつになく… まじめに(・_・;)
恵方巻き 10本! 巻きましたよ

エリーゼのために♪
いい曲 ですね~ 心 洗われそう

報道魂も 大事ですが 自分の 家族のために 生きてほしかったです… 生まれたての 赤ちゃんも いてるのに

ところで ニュースで ニースで きな臭い 事件が… って
きょうたさんちの 皆さん 十分 気を つけてくださいましね ☆
Commented by helleboww at 2015-02-04 17:36
そっかー。kyotachann悪人には見えないけれど、そうかもしれないよね!?笑。またいつかー。
Commented by kyotachan at 2015-02-05 23:36
アンジーさん、
恵方巻き、て、まったくなじみがないんですが、ここ数年よく見かけます。おいしそうだけど、一本、て、食べるのがたいへんそう。そうなんですよねー。生まれたばかりの子どもをおいてまで、というのが本音としてありますよね。
ニースも拳銃を持った軍隊たちがうろうろしていておどされてでもいるかのように感じます。

hellebow さん、
悪人はたいてい悪人には見えないものだからねー。いつか会えるといいですね!
by kyotachan | 2015-02-02 18:58 | 六 人 家 族 | Comments(10)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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