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fumiko 史子。<17>







fumiko 史子。<17>_f0136579_3405944.jpg


「わたしは
この寮を手に入れた日のことを
忘れることができません」

昭彦さんは続けた。

「ああ、ついに由美子は
勝ちやがった。
しみじみ、そう思いました。
これはまさに由美子の勝利だ、てね」

昭彦さんは
照れくさそうに
由美子さんを見た。

由美子さんはこれ以上はない、
というほどの顔で、
にっこりと笑っていた。

「決めて行動することは
人をこんなにも強くするのか。
わたしはその時の由美子のことを
思い出すと、そんな風に思うんです」

まるで由美子は、
結果を知っているようだった。

まるで「寮はかならず手に入る」と
未来のことを確信しているように。

ふぬけのようになった自分の目には、
由美子のあちらこちらと動き回る様子は
まるでコメディ映画でも見ているようだった。

由美子は、
医師会の会員には片端から電話をかけて寄付を募り
役所に通っては助成金の可能性を探り
ついには寮の持ち主だった企業の社長にまで会いに出かけた。

ある日由美子は
ある医者には心にもないことを
今さらのように言われひどく泣いた。

役所の職員にはほとんど相手にされずに
その態度の高飛車なことに腹を立てた。

最初の頃、
由美子のすることなすことは、
はたで見ていても気の毒なくらい、
それはもう、何もかもが八方ふさがりで、
そして、あまりにも現実とはかけ離れた話に思えた。

由美子は息子を亡くしたときのように
再びよく泣くようになった。

そして腹を立ててはぐちをこぼすことが
とても増えた。

毎日がそんなことの連続で、
昭彦さんは、これはいつか
あきらめるに違いないと思った。

小言をいいたくてうずうずしたが、
これは放っておいた方が話は早いと
好きなようにさせることにした。

由美子は泣きながらも、
すぐに立ち直った。

ぐちをこぼすくせに、
あきらめなかった。

企業の社長には最初
「その問題は総務の課長へ」
とすげなく言われた。

由美子は、
総務でこの話を止められちゃかなわんと
しつこく社長に、としつこく食い下がった。

おそらく社長の気まぐれだったのだろう、
どこの主婦がまたなんの話を、
と話を聞いてくれる気になったのには
昭彦さんの方が驚いた。

その社長は由美子のいう、

二十一世紀、
有能な人材、
尊い仕事、

というあの文句にひどく感心したらしかった。

それだったら寮の売り出し価格を検討しましょう、
という話になった。

その日、由美子が大よろこびで
まるで踊りながら家に戻ったのを
今でもよく覚えている。

その頃から風向きが変わってきたのを
昭彦さんも感じ始めた。

おそらくは、
「あの」佐々木夫妻が、
なにかとち狂ったことをやりだすらしい、
という、単なる野次馬根性であったかもしれないが、
「うわさ」を聞いて、そんなことならぜひ、と
いくばくかの金額で貢献させてもらいたい
といってくる人が出てきたのだった。

ああ、なんとも奇特な人がいるものよ、
と自分が思っている間に
由美子の方では
ひとつひとつのチャンスをけして逃さず、
あいも変わらず今日は北に、明日は南に、
と飛び回っていた。

今思い返してもあの頃由美子は、
自分に「あれをしてほしい」とか
「こうしてほしい」とか
一言もいわなかった。

由美子はひとりで何もかもを
やりとげたくせに、
それをあたかも自分が
やりとげたことのように
いつもこの自分を立ててくれた。

それもおそらく、
由美子なりの作戦だったのだろう。

「まったくね、
医者だったわたしに
今度は寮のおやじさんになれという。
わたしの奥さんが、どれほど人を
けしかけるのがうまいか、これで
おわかりになったでしょう?」

そういった昭彦さんの顔は
おそらく窓からさしこんで来る
太陽の光のせいだけではなく、
自分自身の中からわきでる喜びのために
きらきらと、輝いていた。



























人間、詰まっても、焦げ付いても、真っ黒になっても、書いて書いて書きまくりゃあならんときがある。>んだんだ。
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っもーだんだんつまらんごとなってきとーろーもんがー!>とかいうコメントとか?ついでにポチ、とか?

いやはや、恐れ入ります。しつこく、続くわよ。ついてらっしゃい。>て高飛車な感じで。
Commented by tomatomatos at 2010-10-31 10:43 x
週末だけどチェックしにきたよ
やっぱり書いてる(笑)
ぽちっぽちっ
Commented by daikanyamamaria at 2010-10-31 14:46
Happy Halloween。。。* *。:☆.。†

何かを決めて 進むことの尊さ☆

心に響くお話し。。。ありがとうございます^^また伺いますね☆

「trick or treat」。。。楽しい日曜日を。。。* *。:☆.。†

Commented by Kotoko at 2010-10-31 17:19 x
こんにちは。
2-3年前に、南仏に住んでいる日本人はいるのかしらん?
と思って探して、kyotachanさんのブログに辿りつきました。

ちょこちょこ訪問していたものの、
コメントは残したことはなかったのですが、
fumikoがあんまり面白ので、思わずコメントです♪

ブログの記事を読んでいても感じたのですが、
kyotachanさんは、人の心の動きを本当に丁寧に書かれますね。
視点が鋭くて、しかもそれを的確に文章にできるなんて、
本当に素晴らしいと思っていました。

今回は、登場人物一人ひとりへの視点が暖かくて、
読んでるとほっこりします。癒される感じです。(^^)
最近は、PCを立ち上げると一番に読んでますよ~♪

今後も楽しみにしています。頑張ってくださいね!!
ご自分の思うまま、書きまくってくださいね~♪
Commented by yuki at 2010-11-01 01:00 x
初めまして。

ニースは雨の日曜ですね。
数日前にブログを始めたばかりなのですが、ニースに
住んでる日本人はいないかな?と思って検索した所、
こちらのブログが見つかりました。

写真がどれも素敵で、プロ!?と思ってしまいました。
お世辞ではなく、本音です。更新楽しみにしています。

もしよかったら、私のブログにも遊びにいらしてください。
Commented by kyotachan at 2010-11-01 04:45
☆とまとさん

週末は仕事休みでしょうに、、、てか仕事中はちゃんと仕事してくださいよ。ポチポチ、ありがとう~。
Commented by kyotachan at 2010-11-01 04:46
☆マリアさま

いやあ、行事ごとに来てくださっているようでありがとうございます。ウチはまったくないんですよねえ。
長女がこれを口実に友人宅へお泊りに出かけましたが。笑
Commented by kyotachan at 2010-11-01 04:50
☆Kotoko さま

わっちゃー!なんてうれしいコメントを、、、!カンヌにいらしていたんですね。船でコルシカ島へアドベンチャー、ステキです。
いや、もうほんとに、好き勝手に書き続けてやるぞー!と燃えてます。>いや、すでに焦げてます。汗
また寄ってくださいね。コメントありがとうございました!
Commented by kyotachan at 2010-11-01 04:53
☆yuki さま

ニースでイタリアのアモーレとご結婚ですか、、、!きゃーっ!すてきですねー!あの教会、どこだろう?と夫とふたりでしばらく眺めましたがわかりませんでした。ニース近郊の山のほうなのかしら?いい結婚式になるといいですね。写真はもうど素人ぷらすの何も知りません、な人なのでほめてもらうとはずかしいやら申し訳ないやら、、、でもうれしいです。笑。ありがとうございます。また寄ってくださいね~。
Commented by MAKIAND at 2010-11-04 12:26
文句ばかりでごめんなさい。
ほとんど小説を読まないのですが、村上春樹の小説をごっそり買い込んで、なぜかうわさだけでは納得いかず読んでみたのが、小説とは情景描写が細かいものだと思い込んでいたわたしは、また違うタイプの小説だからかな?と思ってしまって。。^^

ごめんなさい!!
文句も書いてねってキョータさん書いてたよね?^^;
Commented by kyotachan at 2010-11-04 22:08
☆マキさま

文句、叱咤、激励、つっこみ、訂正、もうなんでも書いてください。感謝です。
by kyotachan | 2010-10-31 03:50 | なげーやつ | Comments(10)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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