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未来にふく風 <31>

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風は入院中に大学を辞めることを決めていた。

風とおない年の男の子が今年は何もしない一年と決めていることもあって
わたしたちも特別それに反対はしなかった。

大量のクスリを服用しながら普通の学生生活が送れるとも思えなかった。

風はよく外出する。
友人とお茶しに、友人宅へ遊びに、時には夜、食事を終えてから出かけるときもある。

夜出かけるときには何を飲むわけ、と聞いたことがある。
「ビール。味つきの」らしい。

医者もたまのアルコールは問題ないというのだとか。

両耳にピアスをあけて、時には首にネックレスをかけたり指輪をしていることもある。
それをして気持ちが軽くなるなら気分がよくなるならおおいにすればいいと思う。

部屋に引きこもってしまうことだけはしてほしくないから
風が出かけるときはほっとする気持ちがある。どんどん出かけなさいと思う。

落ち込むときもあるらしく「何もしていない自分をものすごい怠けものだと感じる」と言ったことがある。
風、風は怠け者じゃないよ。今は治療に専念していると思えばいいよ。

九月にはまた大学へ戻るつもりにしているらしいが、
それまでは特にやることもない。

職安へ通ったり、フォーマッションが受けられると聞けば出かけて行く。
何もしない自分をはがゆく思うらしい。

風は色んなところへ自分の履歴書を配って歩くようになった。
アルバイトをするというのはわたしもおおいに賛成だった。

やはり十八の大の男が日がな一日中家でごろごろ、というのはどうもいただけない。
ただ、仕事を求めている人たちは大勢いるのだから結果はどうかなとも思っていた。

三月に入ったある日風が言う。
「ママ決まったよ。マクドナルド」。

退院してから三ヶ月半ほどがたっていた。
風の顔が昨日とは違って見えた。


















写真は2014年2月。姉の海、妹の結。Vaugrenier。
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# by kyotachan | 2019-04-19 16:37 | なげーやつ | Comments(0)

未来にふく風 <30>

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風が退院したのは十一月十六日だった。
ちょうど一ヶ月と一日、入院していたことになる。

入院も後半にはかなり退屈していて、それはいい兆候だと受け止めた。

退院する前に二回ほどお試し外出というのがあった。
その時風はほとんど家にはおらず、友人たちと会うことを優先した。

「何か食べたいものある」と聞けば「ケバブ」だという。
ああああそうですかそうですかケバブなら外で食べるということだった。

風が家に帰ってくる、という小さな出来事は
家族全員がひとつの大きな山を一緒に越えたようなよろこびがあった。

そしてその時、電気はまだ戻ってきていなかった。

わたしの日記帳に引かれた二本の線のうち、「風」のほうがはやく止まったことになる。

その線に「退院」と書きつけながら、でも「病気」という線を引くなら
それは「停電」よりももっともっと長く続く線なのだろうなとふと思う。

ぐちはこぼさない、夫を責めない、と決めてはいたものの
こころの中までは自分の気持ちを説得しきれていたわけではなかった。

口を開けばぐちが出てしまいそうな恐怖があり、わたしは夫に対してだんだんと口数が少なくなっていた。

子どもたちも父親を責めることはいけないとでも思っているのだろうか
夫がいるときには不平不満を言わないのは見ていて不思議なくらいだった。

そして夫が不在の時にはわたしにその不平不満をぶつけてくる。
ああ、この子たちはこの子たちなりに夫に気を使っているのだと思うとなんだかおかしかった。

風が家に戻ってきて十日ほどして電気が復旧した。
電気の線は「四十二日間」までのびた。

















北の方にたつ山の名前がわかりました。モン・ショーヴ。Mt.Chauve てはげ山ってこと。
え!はげてませんよね?笑えるー。
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# by kyotachan | 2019-04-17 15:26 | なげーやつ | Comments(2)

未来にふく風 <29>

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クリニックへ入院してから、両手首に包帯をぐるぐる巻きにしていることがあった。

寝ている間にかきむしった、と風は言ったが
夫が看護婦さんに確かめるとプラスティックのナイフで切った、らしい。

自傷行為にはほとほと驚いた。

入院する前、自宅でのことが思い出された。

風の後に風呂場を使ったとき、足ふきマットに血こんがついていることがあった。
バスタブの中にもいくつかある。

その少し前に痔を発症したことがあったから、それが再発したのだなと思った。
そして夫に聞いてもらったのだ。ここは男同士がいいのかもと思って。

夫の答えはこうだった。
「痔はもうすっかり回復して、その後の再発はないって」

その言い方があまりにもあっけらかんとしていて、なんだかそのままになっていた。

そして、ベッドのシーツにもよく血こんを見つけた。
風は鼻血をよく出すから鼻血とばかり思い込んでいた。

この頃から自分で自分を傷つけることがあったらししい。
足の根元辺りを切ってみたりとか。

風はこのまま家にいたままではもっと自分を傷つけてしまうと思ったのだろうか。
クリニックに入ればきっと安全に違いないと思ったのだろうか。

自分で自分を傷つけたい、自分で自分を死なせたい、という気持ちはどうして、そしてどこから来るのだろう。















ニースの北へ向かう道。この山の名前なんていうのだろう?
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# by kyotachan | 2019-04-16 15:24 | なげーやつ | Comments(0)

南仏・ニース在住。フランス人夫・一男三女の六人家族