なんてすてきな夏休みだったろう!
翌日の夜中、トリノから戻ったわたしは心底そう思った。
思い切り散財はした。
するはずの就職活動は手つかずのままだ。
それでもいい。後悔は一切なし。
だってこんなにも満たされて清々しいもの。
翌週からアルバイトは再開し
退職届に記載した通り、八月三十一日まで二週間と二日間きっちりと働いた。
「次の仕事が決まっていないのなら退職の時期を延長してもらいたい」
という打診が社長から二度ほどありそのたびにお断りする。
八月三十一日はさっぱりした気分だった。
リノとの思い出の場所に一点の曇りもない気持ちでさようならをする。
これでもうリノがふらりと現れても会うことはできなくなる。
九月一日の朝、
友人に教えてもらった新しくできた和食レストランへ履歴書を持ちんだ。
蓄えはゼロに等しいからすぐにでも仕事先が決まらないとにっちもさっちも行かなくなる。
その日の夕方、気分がどーんと沈んでしまい、海へ出かけることにした。
ひと泳ぎして帰る道でもう一人の友人と出くわす。
事情を立話しすると「今朝履歴書を置いてきたお店に今から顔を出すといいよ」という。
この時間は夜のサービスのはじまる前の時間でお店側にも余裕のある時間だから、と。
時間は夕方の六時過ぎ。
雨が降り出して寒くなってきた。
友人と別れて、しばらく迷う。
行く?雨だしなあ。寒いし。
気乗りせずのろのろと歩き出す。
まあ、行くか。
何の予定があるわけではなし。
彼女とばったり会うことなんてそうそうあることではない。
その彼女が行ってみたらと言ってくれたんだから。
お店ではオーナーシェフが笑顔で対応してれた。
「(じゃあ明日の朝、お試しで入る?)」と提案され
九月二日の朝から働きはじめた。
結論。
そのお店に再就職が決まった。
へとへとになって週末に休めるのが楽しみなのはもちろん
週が明けてまた職場へ出かけるのも楽しみ。
そんな職場に出会った。
え?リノの二代目に出会ったのかって?
ないないないない。
職場での恋落ちはもうしない!
という、ここまでが今年の夏休みのお話でした。めでたしめでたし。
夏休み中に会った友人たちのリノへの気持ちへの共感がすごかった。なんだーみんな、あるんじゃん?