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garçon ギャルソン/ 少年2





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パパのことを思い出す。
会わなくなってもう十年も経つ。

パパから買ってもらったナイキのスポーツバッグは相当くたびれてきた。
旅行のときくらいしか使わないし大事に使っているつもりなんだけどな。

こんなにぼろぼろのバッグを使う子はいないから時々ヘンな目で見られる。
でもそんなの全く気にならない。

これが使えなくなったらパパからもらったものはもうひとつもない。

バッグの内側に「クレモン」て書いたのはパパだ。
パパの字を見るときぼくはいつも悲しくなる。

パパが突然、家から出て行くその日の朝まで
パパはいつもと変わらずやさしかった。

だから今もそれは夢なんじゃないかと思うことがある。
ぼくは長い夢を見ているだけで
ある日夢から覚めるとパパはいつも通りに家の中に戻って来ている。

そう思うこころの裏側では
そんなぼくをばかにする自分もいる。

そしてものすごく腹が立つ。
パパは男として最低だ。

子どもたちの前でいい人ぶってやさしいパパを演じて
そしてある日突然、いい人のまま消えてしまうなんて。

残される子どもの気持ちやマモンの気持ちを少しでも
想像してみたことはあるのだろうか。

出て行くのなら、そう言ってほしかったし
ぼくのことを好きじゃないのなら、ちゃんとそう言ってほしかった。

パパを思うとき、ぼくの気持ちは好き、と、嫌い、を行ったり来たりする。

今年のはじめに離婚裁判があった。
ということをそれがすんだあとにマモンから聞いた。

平日でぼくにはコレージュの授業があったからマモンは何も言わなかったのよ、と言い訳された。
ジャッドはマモンと一緒に裁判所へ行って、パパと再会した。

ジャッドはその日の午後、たまたまリセの授業がなかったから一緒に行ったのよ、とマモンは言う。
それにマモンはね、あなたがパパに再会して、よけいに苦しむんじゃないかと思ったのよ。

そんなことって!
そんなことって、あんまりじゃないか!

パパに会いたいかどうかは自分でもよくわからない。
だけど、パパとマモンとジャッドがいて、そこにぼくだけがいなかった。

それを想像するとぼくは頭が痛くなって何も考えられなくなる。

パパにこんなに大きくなったぼくを見てほしい。
だってぼく、クラスでいちばん背が高いんだ。
パパのことだって、追い越したかもしれない。

好きとか嫌いとか会いたいとか会いたくないとか
そんなことはどっちでもいいしたいした問題じゃない。

問題なのはぼくにはパパがいる。
それはパパだけだということ。



















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by kyotachan | 2015-09-24 16:33 | なげーやつ | Comments(0)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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