stage en entreprise スタージュ アン アーントルプリーズ/ お試し研修







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日本の学制は敗戦後アメリカのそれと同じになって、義務教育は小・中・高、で六・三・三。
フランスのそれは年数がちょっと違っていて、五・四・三。

合計したら義務教育の年数は同じ十二年。
想像するに教育制度は色々とあれども
研究者によって割り出された「人の受けるべき教育の年数」には世界共通の何かがあるのかも。










わたしは学校、と名のつくものは日本のそれしか経験がないし、
子どもたちがフランスの学校へ通い始めてからはそれに関するわずらわしいことはすべて夫に丸投げで
その点に関してはものすごく楽をさせてもらっている。

えー。だってー。わたし、ここで教育受けたことないしー。

何か問題があるたびにこのセリフを免罪符にすべてを夫に押し付けてきた。
夫は夫で「この、あまりにも無知のニッポンザルにまかせておくわけにはいかない」と思っているらしく
どんな問題にも大していやな顔をすることもなくあれやこれやと世話を焼いてくれている。

わたしにしたら日本の学校とフランスの学校じゃあ、あまりにも違いすぎて
比較する気さえ起こらず、何かあたらしい発見のあるたびに、へーへーまーそーなのーへーんまあ。
てな具合にこちらの教育制度にあきれたり感心したりしてきたように思う。









フランスの学校っていいなあ、と思うところはいくつかあるけれど
その中でも最もいいなあと思うことのひとつに、お試し研修制度、というのがある。

コレージュの最終学年に一週間だけ、「お仕事体験をする」という制度。

研修先は生徒たちが自分で探し出す。
当然手っ取り早く、親たちに打診をする子どもたちがほとんどだ。











長女の場合、当時十四歳、の彼女にとって最大の関心ごとは「エステシシャン」だった。
わたしはたまたま、エステの学校の副社長の奥さま(日本人)と面識があったので
その奥さまに頼み込んで研修をさせてもらった。

エステの学校、といってもそこはエステサロンも併設されていて、
市価の三分の一ほどの値段で本格的なエステが受けられるというすてきなサロンだ。

長女はその学校はじまって以来、最初の研修者だった。
けっこう、学校側には負担だったと思う。

だって、ねえ?
十四歳の子に、何をさせるよ?

顔の施術を一回、全身の施術を一回、受けさせてもらったらしい。
あとは、エステシシャンの仕事ぶりを横で見ていた、らしい。五日間。









二年後の今年、今度は長男の番になった。

クリスマスには自分のコンピュータを買ってもらったくらい、コンピューター関係は大好き。

わたしの使っているコンピューターから突然音が消えて、動画を見ようにも何も聞こえない、なんていう時、
「カゼーん!おねがーい!」というと
たいして嫌な顔もせず配線を見るべく、コンピューターの裏側に頭を突っ込んでくれたりする。

そしてちゃちゃちゃ、という具合に不具合を直してくれちゃったりする。
期待していなかった分だけ、感動はひとしおだ。
まあ、父親の背中をちゃんと見ているのねえ、とは思っていた。

ということで長男は、父親の友人の、世界的にも名の知れたコンピューター関係の会社に決めた。

この手の大企業は Antibes アンチーブ という街のそばにある Sophia Antipolis ソフィアアンチポリス という界隈にある。
ニースに来た頃、つくば学園都市みたいなところです、と誰かに説明してもらったのだけど、
つくば学園都市がどんなところか知らないのでどうにも想像しようがなかったが、
まあなんとなく、あまり広くない敷地内に、大企業ありの学校ありの病院ありの民家ありのスーパーマーケットありの、
いわゆりコミュニティが形成されているという場所なのかなと理解している。








ニースからはバスで一時間ほどで行ける。

初日の月曜日は冷たい雨が降っていて、おまけにバスの出発所をかんちがいしてたらしく
どたばた劇が繰り広げれた。

バスセンターは学校へ行く途中にあって、月曜日の朝、長男をそこで降ろした。
乗り場が数箇所あって、目当てのバスを探すまで待っていようとすると長男がわたしに向かって
しっしっ、ではないけれど、ばいばいをよこしてきた。

ああ、ああ、そうですかい、そうですかい、じゃあ頑張ってくださいよ、という気分で
長男をそこに残して次女、三女を乗せた車を前進させた。

下ふたりを無事、学校に送ったとき、電話が鳴る。
夫からだった。

「乗り場が、違ったんだ。バスセンター出発じゃなかった。マセナ広場だって。マセナ広場!」

実はこの日の二日前、土曜日、夫にお願いしていたことがある。
「バスの乗り場はけっこう変更が多いから、必ず風と一緒に確認しておいてね」

返事があったかどうかは記憶にないが、まあ、子どもたちをダンボールに入れて部屋のすみに置いておきたい主義の夫のこと、
バス乗り場の確認はしているだろうとの思いがあった。

しかし電話での夫の声でそれがなされていなことが一瞬にしてわかった。

最近、思うのだけど、わたしはこれでもけっこうな「肝っ玉母ちゃん」だというと。
その時も、まったく、いや自分でもほれぼれするほど、まったく、動じなかった。

「ああ、はいはい。わかりました。マセナね。じゃあ、風を拾って、向かいまーす」。

風は風で、風のごとくかなんのごとくか、わたしの拾いやすい場所に飄々として立っていて
まったくあわてることなくのろのろと(とわたしには見える)車に乗り込んでくる。

「バス停の確認、土曜日にパパとやってなかったの?」
「ノン」
「あんだけ、頼んだのに!」

吐いてもしょうがないとわかっていても、我慢しきれずにぐちを吐きつつ車を走らせる母。
そんなこと今さら言われてもどうしようもないし、な態度の長男。











マセナ広場、と夫は言ったがそれはリセ・マセナ、の間違いだった。
長男のいうことを信じてリセ・マセナへ向かうと、バス230番がバス停に止まっているが見えた。

「あ、あった!230番。風、いい?じゃあ、がんばって。いい日を過ごしてね」
わたしはあせっていた。
なんたって研修の初日に遅刻させたくはない。

「オッケー」
クールにバスに乗り込む長男を見送って車を発進させる。

と!

また電話が鳴る。
すぐには取れなくて、車を路肩に止めて電話を見るとまたしても夫。

「チケット!普通のチケットじゃだめだって」
「……。?!?!だけど、運賃、いくら?」
「一ユーロ五十」
「十ユーロ、渡したよ、さっき」









朝、車の中で、何かあったらいけないから、と十ユーロ、長男に渡した。
長男は、そのことをすっかり忘れていて、普通のバスのチケットが使えないと言われて、バスを降りたらしい。

ふ、ふう……っ。








こんな風にどたばた劇からはじまった一週間も
いつもの一週間と同じようにあっという間に過ぎ去り、
研修を終えた長男の感想はといえば。

「コンピューター関係の仕事には就きたくない」。

これにはびっくりだったけど、でもコンピューターを仕事にしてほしくないと思っていたわたしにとったら
ものすごーく有意義なお試し研修だったなあと。

あ、そうそう、この企業内の共通語は英語だったらしい。
ニース(近郊)にもインターナショナルな場所はあるのだ。



























写真は今年の元旦、出かけた先のパン屋さんの店先で。このふっくらピザがおいしくて長男は二枚たいらげた。
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Commented by ラパン at 2015-01-28 17:39 x
私もこの制度、すっごく羨ましいんです。
私ももし、こんな経験が出来ていたら、違う仕事に就いていたかも、、とよく思います。
フランスの学校制度、私にも全く未知の世界ですが、羨ましいのが、このスタージュと哲学の授業かなあ、、、。
いい経験ですね。
朝のドタバタ、、、自分の小さい頃を思い出したりして、、、大きくなってからはすべて懐かしくノスタルジーを感じる思い出になりますね。
Commented by greenlove at 2015-01-28 18:49 x
こちらでも最近は「体験実習」で中3の時に1週間職場体験をするみたいです。
私の孫たちもそれぞれ体験しましたが今年中3の孫は自分の通っていた保育園に実習にいったそうです。
当時の先生がまだおられて大変びっくり、かつ喜ばれたとか。そりゃあそうですね。おむつをしてた子供が先生より背も高くなって
園児の世話に現れたんですからね!職種もホントに多種多様でネイリストとかブリーダーとか昔にはなかった職業ですね
スーパーのレジ打ちも結構人気らしいです。体験して一層夢を膨らませた子や逆に冷めてしまった子、いろいろですがいいことですね。
Commented by TAKU at 2015-01-29 01:22 x
おもしろーい。
わたしもそういう機会があったら、違う職業についていたかも。
長男くんが研修に行ったのと同じ業界にいます。
当時は海外からの輸入ものが多かったんですが、いまはそうでもなく。
とはいえ、先進国はアメリカだったりするんで、語学は必要です。いまは、そういう意味でいまはお局様なんで、そこまで最前線には立ってないんですがね。

子供の頃は、ウグイス嬢(野球のアナウンス)をやりたかったんですよね。やり直せるなら、他の職業がよかったなぁ。
Commented by kotokoto at 2015-01-29 13:22 x
14歳で1週間の体験。いいですね。すごく!
日本では今年度から変わりました。
小中一貫教育。という名目のもと、
小学校の6年生で1日。中学2年の夏休みに数日間。
(あれ何日だっけ?)それが、
今年度から、小学6年なし、中学1年、1日のみ。に。
あーーー、残念。大切な体験の機会を
こうやってたいそうに聞こえる大義名分のもと
子どもから貴重な体験を奪うんだなぁ。って。
Commented by Himawari_August8 at 2015-01-29 14:24
ご無沙汰してます。子供達大きくなったね。
というか、カゼくんがすっかりティーンエージャーの顔になってる。
うちの息子の中学校でもこの時期に職業体験というのがあります。2日だけですが。2日で何かわかるのか・・と思わなくないけれど、企業や役所に実際に入って確かめるのは良い体験かもしれません。
私のパート先にも昨日、中学生が来ていて、かったるそうに商品の品出しをしてました。足が痛いよ、座りたいとダンボールを捨てながら女子の呟きを耳にしました。「そうなんだよ、働くってのはたいへんなんだよ、ましてやおばさんたちの歳ではもっとあちこち痛くなるのだよ」と言いそうになりました(笑)
ちなみにうちの息子は税務署に体験に行きました。
俺が公務員になるってのはまず無いなって言ってました。向いてるとは誰も思ってかったけどねー(笑)
Commented by kyotachan at 2015-01-30 02:27
ラパンさん、ラパンさんの職場にも来るのでは?研修生。十四歳、てけっこうかわいいですよね?もうはっきりと子どもとは言えないけどまだ大人でもない、中途半端で。確かにこの年齢で興味のある仕事を垣間見るっていい体験かも。十六歳になったらプチブロはできるみたいだし。そうそう、毎日がね、どたばた劇の連続です。でも何があっても「ま、たいしたことないって」て思ってる自分にちょっと驚いています。ニース、今日あたりはけっこうな寒さ。毛糸の帽子が手ばなせないー。

greenlove さん、あ!日本でも今、そうなんですね?運、これはいい制度だと思います。自分の通った保育園かあ。それはいいアイディアかも。子どもたちも年齢の近い人が好きだから人気が出るでしょうね。わたし、子どもたちには学校(幼稚園も含む)の先生になったらどうか、て時々すすめてみるんですが(なにせほら、こちらは学校のバカンスが多いから)四人中、誰ひとりとしてやりたがる者がいないんですよー。ザンネン!

TAKU さん、あら。コンピューター関係だったの?そうかあ。進歩の早い世界だから常に情報をあたらしくしておかなかくちゃいけなくてたいへんでしょう?TAKU さんってお料理も上手だし編み物も得意でしょう?ずっと何の職業かなあって思っていたんです。いいなあ、お局さま。あこがれますわあ。
Commented by kyotachan at 2015-01-30 02:28
kotokoto さん、あら。じゃあ、日本は地域によって違うのかもしれないですね?一日だけ、だとちょっとさみしいですね。でもね、受け入れる側にしたらこれ、けっこうな負担だと思います。通常の仕事をこなしながら中学生の面倒を見ることになるだろうからかなり準備が必要なのじゃないかと。それが理由で縮小されたのかもしれませんね……。

ひまわりさん、こちらこそごぶさたしてます。またこうしておしゃべりができてうれしいです。カゼ、すっかり声も太くなっちゃって。わたしを見下ろすのがうれしそう。だってさ、記事中、カゼが夫に連絡を取るのって、不自然に感じませんでした?なんかね、わたしに助けを求めるのを避けてるみたいなところがあるの。夫はもう仕事に出かけて遠隔地にいるんだから連絡とったってしょうがないのになぜかいつも夫経由で連絡がある。なんてところもかわいいなあと思うんだけどね。ウチのは野球男児で闘う男子の真逆。ひょろひょろのあまちょろ男子だよー。ママーげんきーて抱きついてくるから。なにか間違ってるみたいな気がしてくる……。
Commented by julia at 2015-01-30 14:30 x
エステとIT。いい経験になったね。バスの話も良かったよ。ママはいつも一生懸命だよね。研修うちの息子は近所の病院で手術を見せてもらったらしい。娘の学校では研修がないそうで残念。こども達には自分の好きなことを楽しくやりがいを持って仕事してもらえたらいいな。(願)
Commented by kyotachan at 2015-01-31 01:56
julia さん、
うわっ。コメントどうもありがとう!実は julia さんに聞きたいことがあったの。ツィッターで、フォローしてくれている人の声が見えないから(ブログ上に反映されないから)わたしからも「フォロー」をクリックしたんだけど、それでも画面上に出てこない。どうしてっ?
病院で手術!そうかあ。息子ちゃんもお医者さんかな?医者って勉強がたいへんだけどでも人相手のいい職業だなあと思う。お医者さん、目指してるの?
Commented by julia at 2015-01-31 02:31 x
kyotaさんこんばんは。見当違いの返事かもだけど、ツイートが読めるのは「kyotaさんがフォロー」してる相手じゃん?どんな人をフォローしてるのかなと今見てみたけど、トビーさんともう一人それに私くらい以外長らくツイートしてないみたいだからブログに出ないゾって思うんじゃないのかなと思ったけどどうだろう?ところで、うちの息子、一応研修は病院に行ったけど他の研修が思いつかなかったからなのよ~。本人目指してないの。ママ的にはなってくれたらいいのになぁと思ったこともあったんだけど成績が全然なんだもん本人もなりたいわけじゃないし諦めたよ。今となっては何でもいいからちゃんと生活して行けるよう仕事してくれるように願ってる。娘も。
Commented by julia at 2015-01-31 02:36 x
ツイート今表示が出てる人、頻繁にツイートしてるから(kyotaさんのブログに出る3つくらいのツイートは)いつもその人のになっちゃってるんじゃないかな。でもね私のツイートも出てた時あったよ。kyotaさんのブログに遊びに来た時ちょうど出てた。(^-^)
Commented by kyotachan at 2015-01-31 02:45 x
julia さん、
ちょっといじってみたら、出た?これで見れるかな?でも不本意なエロ関係の人が出てくる……。
あ、そうなんだ!そうそう、子どもたちの選ぶ職業。わたしはバカンス大国なフランスでは学校の先生がいちばん、と思って子どもたちに打診(?)してみるんだけど、いいね!て反応してくるのはゼロ。なんかもっと華やかな職業にあこがれるらしい。華やかに見えてその実めちゃくちゃたいへんなこと、て若いうちは理解できないのかもねー。
夜おそくにどうもありがとう!
Commented by dangomama46 at 2015-01-31 08:21
うちの娘ら千葉県なんだけど 中学2年で1,2日インターンシップ?職場体験があり、県立高校でも3日間選べる職場体験があるよ。みんな面倒くさがって 楽な職業を選ぶみたいだけど 私たちの時代にはなかったから いいなぁと思ってしまう。kyotachannの息子さん、イケメンですね、良い体験ができて良かったですね。

Commented by kyotachan at 2015-02-01 00:36
だんごさん、ということは研修先は学校が準備してくれるの?そっかー。でも早い時期に「職業」を念頭に入れておく、てけっこう大切なことだと思う。学校の成績ばっかり気にしてやりたい仕事がない、てのがいちばん不幸だものね。
by kyotachan | 2015-01-28 04:59 | 文 化 教 育 | Comments(14)

南仏・ニース在住。フランス人夫・一男三女の六人家族
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