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t'es moche, maman ! テモッシュマモン/ ママ、みにくい!





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小学校三年生のときのクラスメート、エミちゃんには、
ずいぶん年の離れたお姉ちゃんとものすごく小さな弟がひとりづついた。

おうちは車の修理やさんで、エミちゃん家に遊びに行くと
修理工のお兄さんがおんぼろの、
だけど今思えばおそろしいくらいかっちょいいオープン・カーでわたしの家まで送ってくれたものだった。

エミちゃんもわたしもお手紙を書くのが好きで、
教室の中で渡しあうのにあきて、実際に切手を貼って、送りあった。
毎日学校で会う友人に、わたしはどんな手紙を書いていたのだろう。

ある日エミちゃん家に遊びに行くと、
おいしそうなショートケーキを出してくれた。

エミちゃんのお姉さんはおそらく当時高校生くらいだったのだと思うのだが、
わたしたちにケーキを分けてくれながら、

「うち(わたし)?うちが食べるわけなかろーもん。太るやろが!」

と笑ったような怒ったような顔でいった。
わたしは心底びっくりした。

太るから、という理由でケーキを食べないんだって!
それはあまりにも新鮮で衝撃的なせりふだった。









小学校五年生のとき、クラシックバレエの教室に通っていたわたしを
母親がバレエ公演に連れて行ってくれたことがある。

東京まで二人で夜行の寝台列車に乗った。
母親と二人きりで旅行したのはそれがはじめてだった。
そしてそれが最後になってしまった。

わたしが小学校五年生というと二人の兄は高校生だ。
父親と兄たちを、母親はどう説得したのか。
おそらく一度だけ、娘に本場のバレエを見せてやりたいといってくれたのだったと思う。

いくらしたのかは覚えていないが
母親は高価なチケットを一枚だけ買った。

「終わるころにはここで待っちょるけん」

母親は大きな劇場の前でわたしにそういった。
どこで待っているのか不安に思ったわたしの気持ちを察したらしく、

「心配せんでよかよ。母ちゃんはちょっと行きたかところのあるけん」

そう付け加えた。

戻ってきて、どこにいっとったと、と聞いても
母はどこへ行っていたかはとうとうわたしに明かさなかった。

その日の夜は母の看護学校時代の友人の家に泊めてもらった。
食事は外で済ませてお邪魔し、お風呂だけをいただた記憶がある。

「せっかくだから写真を一枚撮ろうよ」

母だったか、母の友人のほうだったかが言い出し、
寄せてもらった座敷で写真を撮ろうというとき、
母の友人がお嬢さんに声をかけた。ほら、あんたも入りなさいよ、という感じに。
はたち前くらいだったと思う、そのお嬢さんが言った。

「やだよー!化粧もしてないのに」

このせりふもわたしにはとても新鮮で衝撃的だった。









わたしはわたしもいつかは、
太るからケーキは食べない、といってみたり、
お化粧してないから写真には写りたくない、という日が来るのだろうな
とこころのすみっこでなんとなく期待していたような気がする。

そんなせりふを言うのは、どこか大人の女の人のような気がしていた。

今頃になって、ふとこのふたつのせりふが頭によぎり、
ああ、わたしにはついに、どちらのせりふもいわないまま、この年になってしまったなあと思った。

わたしは大学に入学したときに、近所の化粧品やさんで、
「お化粧道具」一式をそろえてもらったのだが、
それだけで満足して、それを使う気にはならなかった。

それでも時期がくればわたしだって一人前に
お化粧したり、おしゃれをしたり、を楽しむに違いないと思ってもいた。

大学生だったか、もう就職したあとだったか、
母親の化粧品の買い物につきあったことがある。

そのときお店の人に何かを聞かれた母親が、
「ああ、うちの娘はねえ、ぜーんぜん、興味のなかごたっとですよねえ」
そんな風に答えたのを聞いて、ちょっと心外だった。

わたしはとっさにこころの中で言い返した。
いや、興味はあるのよ興味は。ただ、その時期がまだ来ていないだけ。

わたしはずっとそう思い続けていたのだが、
はたして母親の予言(?)はぴたりと当たり、
五十を意識するこの年になっても、
お化粧にもおしゃれにもとんと興味を持てないままだ。

服装は基本的に十代のころから T シャツ・G パン。
子どもが三つくらいになったころ、
ママ友が「最近またスカートはけるようになってうれしい」というのを聞いて、
あれ?そうなんだっけ?スカート、はくんだっけ?
とトンチンカンなことを思った。

わたしは子育てをしているからとしょうがなく T シャツ・G パンの格好をしているわけではなく、
子育て以前、結婚以前からずっと子育てに最適な格好をしていたのだと気づき、
なんだかおかしくなってひとりで笑った。
まさかそれが理由で四人もの子どもたちに恵まれたわけでもないだろうが。










二、三年前から、頭の分け目から飛び出す白髪が気になって仕方がなかった。

白髪染めをしてももって三週間。
三週間を過ぎるとまた染めなくてはならない。

いっそのこと、刈ってしまいたい。

家族に何度もその話題を向けても
そのたびに反対される。

わたしは自分の髪の毛がだんだん、汚れていて、不潔なものに思われて仕方がなかった。
きたならしいものを頭にのっけているようでとてもいやでしょうがなかった。

ひと月ほど前、とうとう夫が、
「ほんとうに本気なのね?」
といって、バリカンで刈ってくれた。

中学生のころ「四大巨頭会談」の代表にされたくらい、
巨頭には悩まされてきたのだが、
その大きく膨らんだわたしの頭に、わたしはついに対面した。

わたしは新聞紙に山盛りになった自分の髪の毛を見下ろし、
きたならしいものから開放されて、ただただうれしかった。

計算外だったのが、子どもたちの反応。

長女はわたしを見るなり、目に涙さえ浮かべていった。
「どうしてママ?なんでママ?そんなこと、どうやって思いついたの?」

そういわれても、わたしとしては髪型を変えたくらいの意識しかない。
どう答えろというのだろう。

三女は「ママ、頭にスカーフ、まいた?」
とわたしが頭にスカーフを巻くのを確認してからでないとこちらを向いてもくれない。

長男や次女も「t'es moche, maman ! テモッシュマモン/ ママ、みにくい!」とようしゃがない。

丸坊主になったママがよほどおそろしかったらしい。
まあそれもひと月ほどたって、ちょっと落ち着いてきた。










そして驚いたことに、髪の毛を刈ってからというもの、
頭皮からの発汗が増えた。

最初は髪の毛がないのだから、と石けんで頭をこすっていたのだが、
そうすると、中学だか高校だかに、男子生徒からただよってきた、
あの、汗くさ~い、ツン!とするにおいが、「自分から」してくるのだ。

そして、首の後ろに、あせもをたくさん作った。

わたしはもともとじゅうとくなほどの汗っかきではあるのだけど、
今までは頭髪によってそれを押さえ込んでいたのだろうか。

どういう理由からなのか、今まで以上に汗をかくので、一日に何度もシャワーを浴びてしまう。
髪の毛がないから、それもあまりに手間にならず、快適なんである。









刈りあがった髪の毛は、はたして、ほとんどが真っ白だ。
ああ。こんなにも白い髪の毛を、黒くしようとしていたんだなあ。
そう思ったら、申し訳なくなってきた。

髪の毛が白くなりたいといっているのだもの。
白いままにさせてやればいいだけの話じゃないか。

美しくいることよりも自分の快適さだけを重視して生きてきた。
食べたいものを食べ、気持ちのいい格好をしていればそれだけで満足だった。
それでもいつかはわたしももっとおしゃれに興味を持つはずと思って生きてきた。

刈りあがった、半白、というよりほとんど白い頭を見ながら、
いやあ、わたしはもう、このまま変わらないんだろうなあと思う。
































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Commented by masako at 2011-07-14 07:11 x
C'est vrai ? C'est vrai de vrai ???????
そりゃあ、長女ちゃん涙目になるよお。
私、長女がCPの時にショートにして学校へお迎えに行ったら、一緒に帰りたくない!って、涙目で怒られたもの。
以来、髪はこわくて思い切って切れませんが、やっぱり私もそろそろ切りたい。だから、キョータちゃんの気持ちもわかる気がする。でも  そこまで思い切って短くはできないかなあ・・・。
何にしても、どんな事でも キョータちゃんは中途半端にできないのね・・・。
大きくなった子供達の昔話のトップになりそうなお話だわ。
Commented by tomatomatos at 2011-07-14 14:46 x
フィクション?ノンフィクション?
ぶっとびだねー!
Commented by sakanatowani at 2011-07-14 16:55 x
おお〜、kyotachan、丸坊主?!すごい!1か月たったってことは、けっこう今いい感じそう!
実は私、50、60代ぐらいになったら、ベリーベリーショートもいいなって思ってるの。絶壁頭だから実現できるかわかんないけど。でもかっこいいよね〜!
そうか〜、子どもちゃんたちは嫌だったのか〜。そうだよね〜。長い髪が女の子らしい。お化粧してみたい。そんなパステルカラーの世界にいるんだもんね。
でも私は、いいなって思うよ!実用的なだけでなく、おしゃれ的にも。

私もちょっとkyotachanに似て、まわりの女性らしい言葉に驚くこと多かったな。
一度、友人に「ねえ、あの女の子たちってすごいよね〜。いっつもきちんとマニュキュアきれいにして、髪もきちんとしてて!私、時間がなくて、そこまでできないもん」って言ったら、「あの子たちは、あんたがしてることはまったくしないで、その時間にマニュキュアやへアースタイルのこと考えてんのよ」って大笑いされた。
ま、優先順位の違いってことですかね(笑)

それにしてもkyotachan、お母さまに、本当に大事にされてたね^^
Commented by nagatomiki at 2011-07-14 21:25
私も二男が赤ちゃんのときに丸坊主にしたことがあります。幼稚園でうわさされましたが、もう髪が嫌だったのですっきりでしたよ~。私も化粧なし、Tシャツジーパンです。トルコの宗教的には女の人はスカートなのですが。自分がよければいいんです。
Commented by william007 at 2011-07-14 22:54
同じです、同じですよ、私、綺麗にしているママ友を見ると「どうして、こういう風に綺麗にできるんか?そんな余裕がよくあるな~~~」って感じる事がたびたびあります!上のコメントにもあったように、優先順位なのかなって、私も思いました~。
私も髪を染めている時間があったら、他の事している人間です。スカート、持ってません。化粧は日焼け止めくらいです(^^)

私は学生時代、女子高に通ってて、朝礼でお下げ頭がドドドドドーーーーっと並んでたのを見て、気分が悪くなってショートにしました(笑)次の日、指をさされてクラスメートに驚かれました~。あの時のスッキリした感動が忘れられないです(^^)
Commented by ginger at 2011-07-15 00:16 x
刈り上げた頭、あっぱれ!その豪快さが素敵だ!
Commented by kyotachan at 2011-07-15 03:44
masako さん、
道行く白髪・ショートカットのご婦人を見せて「ママが目指すのはあれよ…わかっておくれ」と子どもたちを説得中。まあ、子どもたちもだんだんとなれてきたみたい。>あきらめてきたというか?

とまとさーん、
だーかーらー!うそ・創造・想像・まじりっけ一切なし。まるまる真実のお話でございます!

さかなさん、
わたしもね、実は自分ではすーっきりしていいなあと思っているんだけど。でも子どもに「みにくい」といわれるとやっぱりぐさっときちゃうものなのです。

ミキさん、
なんだかトルコに戻られてていっそうのんびりと子育てを楽しまれているように見えます。やっぱり日本って誰にとっても窮屈なのかなあ。日本で刈り上げたミキさんに乾杯!

william さん、
うふふ。やっぱり同じタイプ!同じ型にはまった人間が並ぶとわたしも鳥肌立っちゃう!どうにかしてそこから抜け出そうとする。うれしいなあ。ちゃんと仲間を発見しちゃった。

ginger さん、
いやあ。ただ、頭がでかいだけですよ。髪の毛がなくなって、これでちょうど人間らしいサイズになったというところです。
Commented by mrs.samantha at 2011-07-16 07:10
ほ、ほ、ほんとなんだ!さすが!自分に自身があってこそできること。あっぱれです!
Commented by kyotachan at 2011-07-16 19:13
サマンサさんまでそんなー!ただ髪の毛、短くしただけですってばー!たぶんね、白髪の出が多いのだと思う。この年齢にしては。あは。
Commented by アトリエ夢 at 2011-07-17 23:10 x
思い切ったねぇ~! 子供達から見たら・・・そりゃ 恐いよね
お母さんが なんか人が変わって自分達の意見も聞いてくれないし この先 どんなことをするんだろう~~って不安かもよ ^^;
私のオイが幼い頃、ママが白いパックをしたのを見てから、もうママが恐くなってね・・・パックって言葉に 異常に反応していたわ・・・可哀想な甥っ子・・その後の発育に影響ないかしらと心配したけど・・・特に・・
偉い人にもなってないけど悪い人にもなっていない・・・。

そのまま白い毛を長くすれば素敵じゃない? 
Commented by miho-1722 at 2011-07-18 01:27
今度は騙されないぞ・・・・と思って読んだら、
本当の事だったのね。格好良いだろうな。

でも、お嬢さん達にはショックだよね。
娘の為に綺麗なお母さんでいれたらなって思うけど、
私もこの数年スカート履いていないし、娘の好きなタイプの服は
着ていない。ってか、着れないし。
(夫の為に綺麗でいたいとは、これっぽっちも思わないってのも、
どうなんだろう・・・・)

白髪見つけると思わず、抜いちゃっているけど、良くないよね・・・。
Commented by kyotachan at 2011-07-18 18:48
アトリエ夢さん、
うん、あとからね、「もしわたしのお母さんが…」て想像して、ああ、やっぱり相当こわかったんだなあと反省しました。もうおそいけど。長くして、すてきになることを期待してます。

ミホさん、
ええー?そんな風に思って読んでるのー?次はだましてやるー!(?)抜けるくらいならまだ軽症よー。わたしのはぜんぜん追いつかなかったもん。
Commented by kotokoto at 2011-07-20 22:21 x
わぁーお!! kyotachanの丸坊主姿見てみたいです。

私も40を過ぎて、白髪がどうも気になって仕方なく
なってきました。
kyotachanの表現した「汚いものを乗せているみたい」と
いうのが私の今の気持ちにぴったり!いつか、この白髪に
なっていく頭を愛おしく感じる日がくるのかしら?

私が20歳の頃、世間は押しも押されずロングでソバージュ、
ワンレングスが台頭の頃、very、veryショートにしました。
その時の周りの男子の視線の冷たかったこと。。。

今、自分が丸坊主?フランスという土地ならば
出来そうな気がしてきました。(笑)

Commented by kyotachan at 2011-07-21 18:24
kotokoto さん、
八十年代、わたしもソバージュでした。あの時代にヴェリーショートだったことことさんはゼッタイに丸坊主できまっせ。保証します!
一月をすぎて、わたしも回りも見慣れてきた、という感じ。前面とつむじのところはほんとうにもう真っ白。ああ、これに染料流し続けていたんだなあと思うとぞっとします。さあ!日本でもアラフォーの丸坊主スタイル、はやらせましょう!
by kyotachan | 2011-07-14 01:52 | 喜 怒 哀 楽 | Comments(14)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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