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fumiko 史子。<22>








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「あっはっはっはっは」

夫がガトー・ショコラを食べながら
おかしくてしょうがない、という風に大口で笑っている。

恭太が、昼間わたしの言った
「三芳くんは自分で足を悪くして生まれてきた」
と言ったことを夫に話して聞かせているのだ。

「ねえ、お母さんって、ヘンでしょ?」

恭太はこういって、
夫に同意を求めた。

夫は
「そうだなあ」
とあいまいにうなづいて
ケーキをおいしそうに食べている。

この人は夜のデザートに甘いものがあると
それだけで機嫌のよくなる人なのだ。

今日はあのあと、
恭太は自転車で三芳くんの家まで出かけた。

そして、三芳くんは「来るような気がしてた」といって
三芳くんの部屋で少し話をしたらしい。

三芳くんのお父さんが、
「世界でいちばんおいしいココア」
をわざわざ三芳くんの部屋まで運んでくれたのだとか。

「でね、三芳、こういったんだよ。
さっき、山下が言ったことで、
ぼくが気にしてるんじゃないかなあって
思ってたって」

恭太はいつものロール・ケーキだ。

「それでね、不幸かどうかは、
自分が決めることだから、
人になんていわれても気にしない、
て、そう言ってた」

わたしは夫と思わず顔を見合わせた。

「三芳ね、よく言われるらしいんだ。
〝まあ、かわいそうにねー〟って。
でもかわいそうかどうかなんて、
人に決めてもらうことじゃないって。
自分を見て、そういう人はだから、
放っておくんだって。
自分はかわいそうじゃない、
て自分でわかってれば、それでいいから、って」

「いいこと、言うなあ」

夫が言った。
ほんとうだ。
三芳くん、なんていいことを言うんだろう。

わたしは、三年生の三芳くんが、
こんな風にはっきりと自分の気持ちに
向かい合っていることに感動してしまった。
そして、三芳くんのご両親の気持ちにも。

夫が言った。

「恭太、さっきのお母さんの話だけど。
自分で決めて、生まれてきた、ての」

「うん」

「あれさ、実は、すごく大事なことなんだよ」

「え、何が?何が大事なの?」

「だから、そう信じる、てことがさ」

「え、じゃあ、お父さんも?
お父さんも、三芳は、自分で決めて、
自分で自分の足を悪くして生まれてきた、
て、そう思ってるの?」

「う~ん、、、、わかんない、けどさあ」

夫はわたしの飲んでいたワイングラスを
勝手に取って、一気飲みした。

あ、わたしの!

つっこみたい気持ちをおさえて
夫の続きを待った。

「どうしてなんだろうなあ。
どうしてなのか、わからいけどさ、
お母さん式に考えると、
誰のことも責められなくなるだろう?」

「え、どういうこと?」

「ほら、それが〝神さまの不公平〟
なせいだったら、
神さまのせいにできるだろう」

「ああ、うん」

「神さま、ひどいっ!
どうしてぼくの足をこんなにしたのっ!
て、神さまを責めたりすることになる」

「かもしれない」

「だけどさ、自分で決めたことだったら、
こりゃあもう、しょうがいないよ、
自分で乗りえなきゃ、て思うだろう?」

「そうかな」

「例えばさあ、ほら、お父さん、
お母さんとけんかするじゃない」

「するね。時々」

「ああっ もうっ お母さん、いやだっ
お母さんのこういうところ、大っ嫌いっ
ああもうやだやだやだやだ、とか、
思うだろう?」

「あはははは」

わたしまでつられて笑ってしまった。

「だけどさ、お母さんを奥さんにしよう、
て決めたの、お父さんだから。
お母さんがどんなに意地悪で嫌なやつでもさ、
しょうがないなあって、まあ、
なんとか一緒にくらしてるわけよ」

「ちょちょちょちょちょちょ!
ちょっとまったー!その例、
絶対おかしいよー!」

わたしはつい大声が出てしまった。
三人で大笑いになった。

夫はひとりで大うけしながら続けた。

「いや、うん、だからね、
お父さんの言いたいことはね、
自分の外のせいにするのは
結構簡単、てことなの。
お母さんにさ、ぐちをぐだぐだ言ってさ、
ああ、キミのそういうところが気にいらないのよねえ、とかさ、
ああ、キミってなんて意地悪なの、とか言ってもさ、
現状はあまりかわらないわけよ」

「うそつき!
よくそう言うくせに」

「あ、まあ、たまにはね。
だけどね、やっぱり、
お母さんを変えようと思ったら、
お父さんがまず、変わらないと。
と思ってはいるのよ、実は」

夫ははずみがついたのか、
自分用のグラスを持ってきて、
ワインを自分のとわたしのにつぎ足した。

「三芳くんの話と、お父さんの話と、
まあ、次元は全くちがうんだけどさ。
でも、神さまのせいじゃなくて、
自分のせいだ、て思うことは、
結構、いい考え方だと思うよ。
ぐちってる場合じゃなくなるし。
自分が、変わらなきゃ、て思えるし」

「自分が、変わらなきゃ」

恭太が、口の中でつぶやくように言った。

「三芳も、そう思ったのかな」

「さあなあ。それはわからないけど。
でも三芳くん、あの子は強いぞお。
あの明るさだけ見たって、
なんていうか、底力的に強いのを
感じるなあお父さんは。
不幸かどうかは自分が決める、
なんてさ、ちょっと、言えないでしょ」

「う~ん、、、」

恭太はうなるように言ったまま
黙ってしまった。

わたしは、夫もまあなかなかいいこと言うじゃん、
と胸の中でつぶやきながら、
マカロンをワインで流し込んだ。

ふと、
電話のわきに置いた封筒が目に入った。

「あ、そうだ。
今日ね、手紙が来たの。
地中号寮から。ほら、見て」

夫に渡すと

「えっ、もうクリスマス・カードなの?」

といいながら中を見ていた。

真っ白のカードにトナカイとサンタクロースが
浮き出ているカードだ。

カードの裏には
〝寮生たちとクリスマス会をするので
よかったらご家族で参加してください〟
と書き添えれていた。
























ああ、この話も、そろそろ終盤、な予感。>あくまで予感です。汗
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どんな終わりが待っているんでしょうか。>自分に問いかけるキョータです。汗汗

恐れ入ります。
Commented by yuki at 2010-11-05 04:42 x
こんばんはー。またお邪魔しています。

ワタクシのブログに出ている、あの教会。あれは
Gairautです。Cimiezよりも北、A8を越えて
若干西側に位置しています。

司祭との面談がドタキャンになってしまって、
まだ日程さえ決まっていないんですけど(笑)

Commented by スロー at 2010-11-05 09:43 x
毎日お邪魔する、しつっこいスローです。
いつも、とってもいいおハナシなので、ついつい、コメントしたくなります。
子育てに引き続き、今回は、夫婦について、またまた反省しきり。
自分がキメて、自分が責任を取る。なかなかできることではありません。
かつて、悩んでいた時代に、そういう考え、発想に出会った時、目からウロコが落ちるっていうか、ゆで卵の殻が一気に、つるんとむけるかんじがしました。
やさしい言葉づかいなので、すんなり、こころに染みます。
Commented at 2010-11-05 11:21
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tomatomatos at 2010-11-05 12:32 x
ふぅーーーッ
やっと追いついたー!
男性がみんなやさしいカンジなのはkyotachanのダーリンがやさしいから?
Commented by miho-1722 at 2010-11-05 17:02
私の中で、恭太ちゃんの顔って出来上がっているんですよね、
なんでかな。
他の登場人物は誰一人顔とか浮かばないんですけど、恭太ちゃんはハッキリ顔が浮かんでくるんです。

いよいよ終盤ですか?
楽しみだけど、もっと続いて欲しい気もします。
Commented by masako_et3filles at 2010-11-05 22:02
>>「だけどさ、お母さんを奥さんにしよう、
て決めたの、お父さんだから。
お母さんがどんなに意地悪で嫌なやつでもさ、
しょうがないなあって、まあ、
なんとか一緒にくらしてるわけよ」

ぎゃっはっはっは~~!
と、これを読んだ時のウチのオットの反応(もち、大爆笑でしょ!)を想像して、めちゃめちゃウケました。

お久しぶり~!しばらく来ないうちに長編連載してたのね。次回、1からきちんと読みに来ます~。キョータちゃんは、やっぱり文才があるよねえ。素敵!!
つられて、(??)私も連載してみたくなってしまう・・・。(←何を言い出すやら!!笑)
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:45
☆yuki さま

ああ、ゲホ、でしたかー!わたしあそこに行くとゲホゲホッておせきが出ちゃうの。>ゼッタイウソですからこれ。
すてきだわあ。高級住宅街じゃないですかー!滝、見にいったことありますよー。あと、なんだっけ?昔の水路の周りが散歩道になってるところ。あのヘン、好きだなあ。眺めがよくて。ご両親もお近くなんでしょう?うらやましい、、、、。結婚までのドタバタをめいいっぱい楽しんでねー!
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:47
☆スローさま

リアルタイムで読んでくださって、コメント残してくださってほんとうにありがとうございます。
>>>>>やさしい言葉づかいなので、すんなり、こころに染みます。
そういっていただいてウレシイ!
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:49
☆かぎさま

うん、なんだかよくわからないけど、でも、わかります。わたしも今回、自分の薄っぺらな人生をいちばん感じています。でもわたしの薄っぺらな人生の中で、わたしにしか書けないもの、もあるんじゃないのかなーと。いや、そんな風に思わないともう、何も書けなくなるので。
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:50
☆とまとさん

なんかさー、人物像が、みんな似たりよったり?もっと色んな人物、書けるようになりたいなーと思った。
超・極悪のサド夫、とか、どうかな。>こわ。
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:52
☆miho さま

恭太、見えます?きっと読んでくれる人の数だけ、恭太の顔があるんだろうなあ。わたしの中ではすらりとした純一に対して、ちょっと丸っこい感じかな。くー!下、てだけで、かわいい。>書いてるだけなんだけど。
Commented by kyotachan at 2010-11-06 01:58
☆マサコさま

ちょっと!マサコ!一体どこにかくれてたのよ!ったくもー!一日四百字、書くんじゃなかったのー!この詐欺師!>って、そこまで意地悪にならなくても。うわー!(ブログの世界に)おかえりー!なーにかくれて楽しいことやってたのかなー?さあさあ、さくさく一日四百字、頼みますよー!
あ、これさ、全然、長編、とかそういうのじゃないから。趣旨は「書いて書いて書きまくれ」。つじつまとかテーマとか、あとでなんかつければいいか、みたいな?だからまとめて読むと、はっ?????だと思う。気にしないで。オネガイネン。
Commented by somashiona at 2010-11-06 07:05
そっかぁ、恭太との会話はこうなったんだ。キョータちゃん頑張ったねぇ。史子さんが話していることや、その姿を想像すると、キョータちゃんに直結するのは僕だけ?自分が普段言いたいことを誰か他の人に思う存分言わせる、これは快楽にちがいない。こんなことを上手くできる君がうらやまし。この物語が続けば続くほど僕たちはキョータちゃんワールドを深く垣間見ることが出来るんだね。楽しみ、楽しみ。
Commented by kyotachan at 2010-11-08 01:18
☆somashiona さま

えへへへへ、、、マナブさんにいただいたコメントが妙にインパクトあったので、ここで活用させていただきました。みんなでつくる史子。て感じです。感謝感謝。史子はねえ、そうですね。のん兵衛なところとか?わたしによく似てますわ。笑
by kyotachan | 2010-11-05 01:21 | なげーやつ | Comments(14)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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