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fumiko 史子。<19>







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「山下に、言われたの」

「えっ、山下くんに?」

山下くんは恭太の同級生。
お父さんは都内にいくつもの
レストランを経営していて、
お母さんはそれを手伝っているらしい。
両親ともに家をあけていることが多く、
山下くんは完全におばあちゃん子。

「うん、おれは恭太みたいなギゼンシャでもなければ
三芳みたいな不幸者でもない、て、言ったんだ」

三芳くんはドゥ・フレールという
商店街にあるケーキやさんの次男坊。

三芳くんは、生まれつき、足が悪くて
杖がないと歩けない。

「そっか。
恭太がギゼンシャで、三芳くんが不幸、ねえ。
とりあえず、辞書、引いてみる?」

恭太が三年生にあがってからこっち、
できるだけ辞書になれてもらいたくて
機会のあるごとに辞書にさわらせるようにしている。

わたしがそうだったように
恭太も辞書を引くのがすごくおっくうらしい。

持ってきた辞書をわたしに渡そうとするので
じろりとにらんでやった。

「ガ、、、、ギ、、、、ギ、、、ザジズゼ、、、ギゼ、、、、」

時間をかけて辞書を引く恭太を辛抱つよく待つ。
純一のときはどうだったかなあ。
きっとじれったくて、引いてあげていたような気がする。

「ギゼンシャ、はない。
でもギゼン、がある」

「シャ、は〝人〟てことだから
ギゼンでいいんじゃない?」

「〝本心からでなく、
うわべをつくろってする、、、、、〟」

恭太が辞書をこちらにおしやった。

「〝善行〟」

「んーと、だからどういう意味?」

「本当の気持ちからじゃなくて、
ていうか、
本当はそうしたくもないのに、
いいことをする、
てこと、かな」

「本当はしたくないのに」

「そうなの?」

「えっ?」

「恭太は、本当はそうしたくないのに、
いいことを、する人、なのかな」

恭太は、下を向いて考えこんでしまった。
と、ふと顔をあげて言った。

「えーとさ、加賀、覚えてるでしょ」

「加賀先生、覚えてるよ。体育の」

「そう。加賀のこと、好きじゃない、
て言ったことあったよね、ぼく」

「あったね」

「そしたらさ、お母さん、言ったよね、
学校の先生だって色々だから、
好きになれなくても気にしなくていいって。
でも先生は先生だから、好きになれない分、
あいさつはていねいにするようにって」

「言った」

「だからぼく、加賀とすれ違うときとか」

「ていねいにあいさつ、してるの?」

「うん、してる」

「えらい!」

「え、だって、お母さん、
お母さんが、そう言ったんだよ」

「そうだけど、それをちゃんと実行してる
恭太は、やっぱり、えらいよ」

「えらい?ぼく、えらいの?
うん、だけどね、これは、ぼくの本心、
じゃないから。
お母さんにそういわれて、
しかたなく、してるだけ、だから」

「そうかあ。
やさしいなあ、恭太は」

「やさしい?やさしいの?ぼく?」

あまり大きくない目を、
恭太がめい一杯開いて、
わたしのことをのぞきこむようにする。

ああ、なんて恭太はかわいいんだろう。

純一とは十歳も離れていて、
次男坊というよりは、
一人っ子がひとりずついるみたいだ、
とはよく思うけれど、
末っ子、というだけで、恭太は
なにもかもがかわいらしい。

恭太が、小学校三年生のまま
とまってくれたらいいのに、
とさえ思ってしまう。

恭太の顔を見ていたらふいに
話すつもりなどなかったのに
自分が小学校五年生の時の担任だった
丸田先生のことを恭太に話して聞かせてしまった。

わたしの、一番はずかしい、
そして今でも胸がちくちくと痛む、
小学校時代の思い出を。

恭太は、へー、とか、ふーん、
とか相づちをうちながら聞いていた。

「丸田先生に〝いつもふけがあります〟
なんて、お母さん、すごいね」

「でしょう?
お母さん、なんてひどいこと
書いちゃったんだろうなあ」

わたしがそういうと
恭太は黙ってしまった。

「お母さんね、これはもう、
ほんとうに最近になって思うことなんだけど
ギゼン、て〝やさしさ〟てことなのかなあって、
そう思うようになったんだ」

「やさしさ?」

「うん、恭太が、好きになれない加賀先生に、
ちゃんとあいさつしているのは、
やっぱり、恭太が、やさしいからだと思うの」

「うーん」

「だから、いいんじゃないかな。
別に、山下くんに、ギゼンシャ、て言われても」

「えーそうかな。
なんかぼく、ちょっと、ムカ、としたんだけど」

「意味、知らなかったくせに」

「それはそうだけどー!
でもその言い方で、なんか、ムカッて」

「ああ、それは、
三芳くんと一緒にいたときだったからだね、きっと」

「ああ、うん、そうだ、そうかもしれない」

「だって恭太、三芳くんといるのは
ほんとうにそれが楽しいから、でしょ?」

「三芳といるとき?
うん、ぼくね、もうね、
めちゃくちゃ楽しい。
ていうか、そばにいると、ほっとする」

「うふふ、
ほっとする、かあ。
いいなあ。恭太は。
いいお友だちがいて」

わたしは三芳くんと、その家族のことを思った。

三芳くんのお父さんは、フランスで修行をして
日本へ戻って来てからお店を開いた。

お店の名まえはドゥ・フレールという。
フランス語で「ふたり兄弟」という意味らしい。

純一が、地球号寮から戻るときに、
おみやげで買って来てくれるのは
いつもこのお店のケーキだ。

ドゥ・フレールのケーキは、
どれもこれも、びっくりするくらい、おいしい。

そして、三芳くんのご両親、
三芳くんより三つ上のお兄ちゃん、
そして三芳くんも、
誰もがものすごく明るい。

ケーキももちろん好きだけれど、
わたしはこの家族のことが
大好きだ。

ケーキを食べてお腹がよろこび、
家族の笑顔を見て、こころがよろこぶ。
そんな気にさせてくれるのだ。

「恭太、じゃあさ、
三芳くんって、不幸なのかな」

「えっ?」

「だって、山下くん、そう言ったんでしょ。
恭太がギゼンシャで、三芳くんが不幸者だって」






















もうなんか知ってる話だからつまんなーい!>ええええーっ?!いやだけどその、ここを通らないとやっぱり。
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ケイゾクハチカラナリ。もうキョータ、これ、座右の銘にしちゃう。>十九回でなにをえらそーに。

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Commented by スロー at 2010-11-02 09:44 x
偽善者・・・ですか。
くもりが全くない、イイ人に対して、そう思ったことがあります。
自分が、不純物が混じり、くもっているので、純粋な人を理解することができず、
とりあえず、その人を「偽善者」と思うようにしていたようです。
自分の「くもり」を知らない人は、よほど鈍感か、無知なのか、
知っていて知らんふりするのは、やはり、偽善者だと思います。

うちも、いつでも辞書が引けるように、子供たちの身近に辞書を置いていました。

さて、さて・・・今後も楽しみにしていますね。
Commented by julia at 2010-11-02 20:28 x
ふけと言えば、最近は何だか見かけませんが、昔は制服とかにパラパラ・・・なんて後姿、やーねーという感じだけど、結構見たような。だからふけ取りシャンプーのコマーシャルなんてのもよくあったよね。
作文で自分や家族のふけのことを書くなら大丈夫な気がしますが、先生のことで書いた辺り、やっぱり驚くかも。何の悪気もなかった点が、余計に。もっと違うことは書けなかったの?って。
先生のショックは、想像がつくだけに怒り具合が陰湿で怖いよ~。
Commented by kyotachan at 2010-11-03 01:05
☆スローさま

ああ、なんかわかります。なんだか誰にでもにこやかに接することのできる人、て「あいつ、偽善者?」て思ってしまう自分。
わたしなんか、くもりベースの、純・不純物(?!)的な人間ですからね。知っていて知らんふり。うーむ、これも偽善、ですかね。日本語だと偽善者って「いい人ぶる」て意味に使うみたいですがフランス語のイポクリットていうと「本心を隠す人」なんですよね。ああ、なんかよくわからなくなってきた、、、。
Commented by kyotachan at 2010-11-03 01:07
☆ジュリアさま

そういえば、昔って「ふけ」がもっと身近にあったような気がします。メリットシャンプー、でしたっけ?はやりましたよね。
史子ちゃん、ねえ?ほんとに悪気がなくてよくこんなこと書けましたよね。て、自分で書いてて言うのもなんですが。
あ、丸田先生?こわいでしょ。ほんとに丸田先生はこわい。人として。
Commented by MAKIAND at 2010-11-04 12:46
え?みなさん、知ってる話なの?わたしが読んでないだけ?ざんねん。^^;

やさしさ。だね。^^ いいね~キョータさん。ますます好きになっちゃった。
Commented by kyotachan at 2010-11-04 22:10
☆マキさま

これのすぐ前に「偽善者と不幸もの」ていうのを書いたんです。史子と恭太の会話だけの話を。それが小三の子どもがする会話ではない、という指摘をうけて、いや、わたしもこれはありえないなあ、て書きながら思っていたんだけど、だから、これ、それをベースに書き直しているんです。純一の話が出てきて、ずいぶん違う話にもなりましたが。
by kyotachan | 2010-11-02 00:43 | なげーやつ | Comments(6)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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