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fumiko 史子。<13>







fumiko 史子。<13>_f0136579_23544366.jpg


「美代子さんってね、
ほんとうに小さい人なんです。
小さくて、やせっぽちで、
少女のようにかわいい人なの。
年はわたしより、ふたつ上なのに」

ね?という風に由美子さんは
昭彦さんの方を見た。

「その美代子さんがね、
〝自分はくだりのエスカレーター〟
に乗っているようなものなのよ。
常に、必死で登ろうとしていないと、
いつの間にか
どん底に落ちてしまっている、って」

美代子さんと昭彦さんがふと
ほほえみあった。

「今でもやっぱり生活が、
ものすごくたいへんらしくて。
日本語教師、といっても、
常にその需要がある、
という職業ではないし、
人間が相手のお仕事だから
ストレスも色々とあるらしくって。
でも、会うたびに、
顔が、だんだんと、
生き生きしてきているのが
はっきりとわかるんです」

美代子さんは、
由美子さんと昭彦さんが寮を開いてから、
日本へ一時帰国するたびに地球号寮へ寄って、
そして泊まっていくのだという。

「いつ会っても
〝もうめちゃくちゃたいへんでー〟って
ぐちをこぼしているくせに、
ちいともたいへんそうに見えないの。
なんていうか、すごく、楽しそうなんです。
いや、ほんとうにたいへんなんだろうな、
とは思うんだけど、でも、
それさえも楽しんでる、ていうのかな。
いろんな人が遊びに来てくれて、
仲のいい子とは夜通し飲んでおしゃべり、
なんてこともあるんですって。
それでね、みんな、
色んなものを置いてってくれるんだって。
友だちが帰ったあとに買い物の袋が目に付いて、
あわてて電話で忘れ物してるよ、て言うと、
それはおみやげよ、ていう人もいるし、
お茶の葉を入れてる缶から
お金が出てきたこともあるんですって」

由美子さんのことばに
わたしたちはふっと笑った。

美代子さんは、
ご主人のいった「使命」を
自分の人生にもあてはめてみた。

自分の使命はなんだろう、
それはどうやって、いつ、どこで、
そしてどんな風に、自分にやってくるのだろう、
そんな気持ちで、毎日毎日過ごしていた。

使命とは、どこからかやってきて、
わたしがあなたの使命ですよ、
そう言ってくれるものだと思っていた。

ある日、美代子さんは気がついた。

違う。

使命は向こうからやってくるのではない。
自分が、何を使命にするか、決めるのだ、と。

わたしはドイツで、
主人がわざわざ、
わたしを連れ戻ってくれた
ここ、ドイツで、
子どもたちふたりと生きていこう、
ここで日本語教師をしながら生きていこう、
それがわたしの使命だ、
そう決めて、ここで生きていこう、
そう思ったのだと。

「わたしね、もう、なんていうか、
感動、しちゃったんですよ、
美代子さんのこの話に」

由美子さんは顔を赤らめていった。

「なんて、強い人なんだろうって、
そう思ってね。
だって、わたし、想像してみたんです。
亡くなったのが、息子じゃなくて、
主人だったらわたし、どうしただろうって」

由美子さんは昭彦さんを見た。

「それを美代子さんに言ったんです。
だって、夫を亡くす、てことは
生活が、ひっくりかえってしまうわけでしょう?
わたしにはそんな想像、とてもできない、って。
わたしは息子を亡くしたけど、
でも夫とふたり、でしたもの。
夫とふたりで、なんとか、やってこれましたもの。
そういうとね、美代子さん、」

うっふっふっふっふ、
という風に笑って、

「美代子さんも上が男の子、で下が女の子、
なんですけどね、
美代子さんったら、
あら!そんなことないわ、って。
夫はしょせん、他人だもの、って。
わたしの息子が死んだらわたし、
きっと気が狂ってしまいます、って」

美代子さんが、あまりに楽しそうに笑うので、
わたしたちもつられて笑ってしまった。

「なんだかね、わたし、
ものすごく、すっきりしちゃって。
美代子さんと話しができてよかったなあって
こころの底から、思ったんです」

由美子さんは、昭彦さんを見た。

「そしてね、わたしは、」

と言ってから一息ついた。

「わたしは、使命、
ということばについて、
はじめて、
ええ、それはもう、生まれてはじめて、
考えるようになったんです」

由美子さんが使命をシメイビールと勘違いしたせいで、
美代子さんはそれは「命を使うこと」だと言い直してくれた。

つまり、命を使う、とはどういうことか、
を考え始めたのだ、と。

息子が死んでから、
自分を責めて責めて責め続けた。

周りからもほとんど「人殺し」同様の扱いを受けた。
昭彦さんさえ、最初は由美子さんをなじり続けたのだった。

いっそのこと、自分も死んでしまうことができたら、
どんなにいいだろう、と何度も何度も思った。

周りの人のいうように、
おそらく息子は自分が殺したようなものなのだろう、
そう自分に言い聞かせるのだが、
どうしても納得いかないののもまた正直な気持ちだった。

はじめての子どもで男の子、
といえばたいていの母親は
それこそ「一瞬も目が離せない」
という思いで子育てをするはずだ。

自分だってそうだった。
一瞬も目が離せない、
危険のないように、
転ばないように、
飛び出さないように、
ひと一倍、自分だってこころをくだいて、
息子のことを育てたつもりだった。

大学に入ったときには、
よくもここまで無事に、
死なずに育ってくれたものだと
ほんとうにほっとした。

息子は本来きれい好きで、
どんなに遅く帰っても、
必ずお風呂に入って寝る子だった。
「おふとんを汚すのがいやだ」
というような子だったのだ。

その日も、いつものように、
無事に帰って来た息子にほっとしたのを覚えている。
お風呂に入るといったことに、
自分は何の疑問も、違和感も抱かなかった。
それは日常の、当たり前すぎるくらい当たり前の
一こまだったにすぎない。

それなのに息子は死んでしまった。
なぜ死んだのだろう、
なぜ、息子は、死ななければならなかったのだろう。
そんな風に考え続けていた。

そして、使命、ということばを知ったとき、
はっとしたのだ。

息子は
自分の命を使って
わたしに何かを教えてくれようとしたのではないか。

はじめてそう考えられるようになった。

自分が死ぬことによって、
息子はわたしに何かを
伝えたかったに違いない。

そうだ、きっとそうだ、
そうでなければ、
息子の死の説明がつかない。

由美子さんはその考えにとりつかれた。






















階段を、かけあがっております、心臓が、どきどきとしております。ただただ、感謝です。
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こちらの方も、超特急の、エレベーター並みの速度で、上昇中です。ただだた、サンクスです。

あの、ほんとに、恐れ入ります。
Commented by julia at 2010-10-27 07:59 x
何だろう、使命って。次、何て書いて来るんだろう?
ワクワク。
ブログを開いて、「史子」の番号が新しくなっていると、うれしくなります。
Commented by at 2010-10-27 08:19 x
お!二位じゃないか。

ブログ村のほうは見方がわからないわ。
Commented at 2010-10-27 10:44 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tomatomatos at 2010-10-27 13:00 x
エスカレート?エスカレーター?
Commented by kyotachan at 2010-10-27 20:32
☆ジュリアさま

ほんとに?ほんとに?ほんとにーーー?????今日も書きました。読んでください。
Commented by kyotachan at 2010-10-27 20:36
☆ぐーちゃあああああああんんんんんん☆

フランス語で一位、てあんまりやろ?袋たたきの刑にあうかもしれん。どがんしゅー!今さらカテゴリーかえるのも、どうよ。
ブログ村、なんか、わたしったらどこに迷い込んだのかしら、て感じやろう?ひとつは「仕事→外国語→フランス語」もうひとつは「趣味→小説→エッセイ・随筆」。ブログ数の多さにあらためて頭くらくらするよ。こんだけ細分化したら「書いたもんが勝ち」てことなんやろうなあ。ひゅーって落ちていく自分が今からこわい。
Commented by kyotachan at 2010-10-27 20:38
☆かぎさん

賞味期限二 三年前に切れてても平気。あ、だけど、おもちと一緒に送ってー。年末に。>なんてずーずーしー!
千五百円値切るのって、それ、カリスマ主婦になれるで。
たっ、、、、、やっぱり?
Commented by kyotachan at 2010-10-27 20:39
☆とまとさん

おうっ!ありがとよっ 他にもいっぱいあると思うー!またよろしくねん。>ぶちゅう。あ、これはもういいよね。
Commented by mippi at 2010-10-28 22:28 x
きょーたちゃん、携帯から読める事を発見(遅っ)。毎日わくわくしながら読んでいます。頑張って書いて下さい。楽しみにしています。
Commented by kyotachan at 2010-10-29 22:18
☆mippi さま

ああ、携帯で記事を投稿する、てのは聞いたことがあったけど、読むこともできるんですね(当たり前か?)
いや~なんだかたくさんの人の応援いただいて、、、、ががが、がんばりますー!
by kyotachan | 2010-10-27 00:00 | なげーやつ | Comments(10)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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