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fumiko 史子。<10>







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恭太は三年生になってから
少年野球チームに入った。

その練習は日曜日の午前中、
と決まっている。

「今日はおれが連れてくよ」

という純一に恭太のお供をお願いして、
お昼は近所の公園でお弁当を食べることにした。

お弁当、といっても
ウチのお弁当はいつも簡単。

塩おにぎりとのりを別々に。
食パンとハムを別々に。
ゆで卵。
ポテトチップス。
忘れてならないのは、
マヨネーズと塩。
タッパーに入れた夕べの残りもの。
あとはくだものとナイフ、
お水をバスケットに放り込む。

この街には大きな川が流れていて、
その川の両側は空き地になっている。
わたしたちはそこでお弁当を食べるのが好きだ。
年がら年中、
お天気がいい日にはここでお弁当を食べている。

そしてそこは、
どうしてだろうねといぶかるくらい、
人がいなくて、ガラガラなのだ。
こんなに気持ちのいい空間なのに。

野球の練習を終えた恭太と、
それを見ていた純一が、
ふたり並んで歩いてくる。

純一は誰の血を引いたのか、
ひょろりと背が高い。
わたしのことはもちろんのこと、
夫のこともとうに追い越してしまった。

恭太は、成長期に入る前の、
あどけない体型をしている。

ござの上に持ってきたものを並べると
おのおの食べたいものを手に取る。

おにぎりにのりを巻いて食べるもの、
食ぱんにハムとマヨネーズをはさむもの、
まずりんごからかじるもの。

わたしはとりあえず、
夕べの残りから手をつける。

「おれさあ、すんげーよかったなあ、て思ってるんだ」

純一が唐突に口を開いた。

「地球号寮に、入って」

わたしたちは、ああ、という風にうなずいた。
それはわたしたちも思っていたことだった。
純一が、地球号寮に入ってよかったなあ、ということは。

恭太が三年生になって野球をはじめたから、
日曜日に行くことができなくなった。

寮の経営者である佐々木さんご夫妻が
「日曜日は夕食のしたくがいらないからゆっくりできる」
とおっしゃって、行くのはいつも日曜日だったから、
純一が大学生になってからは一度も行ってないが、
わたしたちは家族四人で結局、十回近く、
地球号寮へお邪魔している。

昭彦さんがわたしたちにピザを焼いてくださるために
釜にピザ生地をいれたあたりで、
いつも学生たちが集まってくるのは恒例になっていた。

わたしたちのために焼いてくださったピザを
思い思いに学生たちがつまんでいくのを見ても
昭彦さんも奥さんの由美子さんも何も言わないで
好きにさせておくのも毎度のことだった。

「若いってことは、常に腹が減ってる、
てことでもありますから。
ピザくらい、好きに食べていいんです。
これは冷蔵庫のそうじにちょうどいいんです。
しなびた野菜をのっけてチーズでかくして焼いてしまえば、
どんな野菜もどんどこ食べてくれます」

昭彦さんはそういって笑った。

なぜ昭彦さんが外科医をやめて、寮を経営することにしたのか、
そしてなぜ外国人留学生を受け入れるようになったのかは、
昭彦さんが言ったように、「おいおい」わたしたちに「直接」
話してくれた。

息子さんを不慮の事故で亡くした佐々木さんご夫妻は、
自分たちの抱える悲しみに耐えると同時に、
それとは全く別のベクトル、
すなわち「街のうわさのタネ」にされたことに
耐えなければならなかった。

そのうわさが、せめて事実ならよかった。
しかし、それはいつの間にか、
真実とは全くことなる「別の話」と姿を変えていた。

昭彦さんは言った。

「わたしたちは、勝たなくてはならなかったのです。
その、わたしたちが主役の、全く知らない話に、です」

昭彦さんは、当時の職場でも、
遠巻きにされて、とてもまともに働ける状態ではなかったという。

「不思議、なんですよねえ。
誰ひとりとして、わたしに、
わたしに直接、話を聞きにきたものは
いなかったんです」

昭彦さんは苦しそうに顔をゆがめた。

「家の近所でも、職場でも、
友人だと思っていた連中も、
ひとりも、です」

昭彦さんはしばらく自分の手の甲をじっと見つめた。

「わたしが、その中へ入って、
そしてわたしが、話すべきだっんですよ。
とても簡単なことだったんだ。
でも、わたしには、それができなかった。
なんでおれが出ていかなきゃならない、
犠牲者はおれなんだ、てね。
息子を死なせて、うわさのタネにされて、
犠牲者になりきっていた」

長いためいきがあった。

「ごうまん、てやつですなあ」

昭彦さんは顔をあげて、
そしてにっこりと笑った。

そして、息子さんが亡くなった翌年、
昭彦さんのお父さまが亡くなった。

開業医だったお父さまから、
「それはもう、思いがけないほどの」
財産を受け継いだ昭彦さんは、
仕事を辞めることを考えはじめたという。

「外科医、なんてね、しょせんは
体力勝負、てことろがありますから。
目のほうも、だんだんとね、めがねが
必要になってきて。
ああ、そろそろ、いいかなあと、
思い始めたんです」

そして、「自分の人生」を、
はじめて、考える時間を持つようになったと。
























つじつまはあとからつける。今は書いて書いて書きまくれ。もうひらすらそれだけ。
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恐れ入ります。
Commented by 白ポーター at 2010-10-23 22:26 x
応援クリックさせて頂きます!
宜しければ僕の方も応援して頂けると嬉しいです!
いきなりの厚かましいコメントで申し訳ありません。
これから毎日、出来るだけ応援ぽちさせて頂きますね。
それではこれからも頑張ってください!
Commented by somashiona at 2010-10-24 04:34
いいぞ、書いて書いて、書きまくれー!
やっぱりキョータちゃんの頭の中は「食」が重要な位置を占めているんだなぁと感じました。食の話が出てくると登場人物たちの生活感が感じられて、彼らにさらに近づけるね。ウワサ話の真相を誰も本人に直接聞かないって、リアリティあるなぁ。それを自分の方から話すべきだったと言える昭彦さんは底力のある人だ。
つづき、つづきを〜!
Commented by sa55z at 2010-10-24 09:06
もう主婦やめて、作家になりましょう。
ハリーポッターの作者のように。
Commented by kyotachan at 2010-10-24 23:58
☆白ポーターさま

しえーっ!小説、208回目、、、ですか!実はわたくし、なげー文章、最近書き始めたばっかりで、そして、同じ話をこんなに続けて書く、ということは生まれて初めてで、十回、に達したとき、鼻の穴から息を吐き出して何かをやりとげたような、なんというか、ひとりでいい気になってたんですが、、、甘かったです。すごいですねー!それだけ読む人をひきつける文章を、わたしも書きたいと思います。次回はぜひ感想をお聞かせ願えればありがたいな、と思います。コメントありがとうございました。
Commented by kyotachan at 2010-10-24 23:59
☆somashiona さま

ありがとうございます~。もうほんとに、ひとり読んでくれてればいいからー!と思って書いてますよ。食べ物の話ねーあんまり意識してなかったけど、でも「いきつぎ」に入れると書いてるほうもちょとほっとしたりして?
Commented by kyotachan at 2010-10-25 00:03
☆sa55z さま

あ、はい。そうします。ハリーポッターは書けませんが、、、、。>有能な、というかモノ好きな編集者、求む。
by kyotachan | 2010-10-23 22:12 | なげーやつ | Comments(6)

南仏・ニース在住。フランス人元夫の間に一男三女。

by kyotachan
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